Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

八千草薫さんは肝臓にも すい臓腫瘍IPMNはMRIで早期発見

女優の八千草薫さん
女優の八千草薫さん(C)日刊ゲンダイ

 女優・八千草薫さんの命を奪ったのは、膵臓がんでした。今年の予測値では、膵臓がんの死亡数は3万5700人と推計されていて第4位。この10年で5割増です。

 死亡数が膵臓がんを上回る肺がん、大腸がん、胃がんの罹患数は10万人を超えますが、膵臓がんの罹患数は4万人ほどですから、厄介ながんであることが見て取れるでしょう。

 そんな膵臓がんについて、注目されているのが膵嚢胞です。嚢胞は、内部に液体をためた袋状のもので、皮膚や唇などにできる水ぶくれもそのひとつ。膵臓にできるのが、膵嚢胞です。

 それが、膵臓で作られた消化液の膵液を十二指腸に流す膵管にできると、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と呼ばれます。IPMNは、早期なら良性なのですが、時間の経過によってがん化することがあるのです。

 画像検査の進歩で、早期のIPMNが発見されることは珍しくありません。CT検査では1~3%、MRI検査では10~20%の確率で発見されるという報告も。

 早期なら7~8割は無症状といわれますから、画像検査の副産物といえるでしょうが、その効果は見逃せません。

 IPMNは、盛り上がるよう(乳頭状)に増殖する腫瘍で、豊富な粘液を分泌するのが特徴。それで膵液の流れが妨げられると膵炎を発症して背中の痛みを生じたり、病変が大きくなって黄疸が出たり、膵機能の低下で糖尿病になったり……。経過観察でチェックしながら、腫瘍が大きくなってきたタイミングで手術します。

 悪性化していても、腫瘍が膵管にとどまっていればよいのですが、膵管の外に浸潤すると、通常の膵臓がんと同様に難治がんになるのです。

 それでもIPMNは、がんになる前の段階で診断できますから、通常の膵臓がんとは区別して、しっかりリスク管理することが大切です。

 国際ガイドラインによって治療法が決まっていて、一般に手術の適応は主膵管の太さが大切な指標になっています。そのほかにもさまざまな条件を加味して、主に「主膵管の太さが10ミリ以上」「黄疸の症状」などがあると、手術の適応に。

 IPMNのもうひとつの特徴として、ほかの臓器のがんを合併しやすいといわれます。否定する報告もあり、議論の決着はついていませんが、経過観察するときは、MRIなどで膵臓以外の臓器もしっかりフォローすることが大切です。

 八千草さんの膵臓がんが、通常の膵臓がんなのか、IPMNによる膵臓がんかは分かりませんが、今年になって肝臓にもがんが見つかっているのは気になります。

 人間ドックなどの腹部エコー検査で膵嚢胞が見つかったら要注意です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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