独白 愉快な“病人”たち

最後の手段で肛門にホースを…お侍ちゃんが語るクローン病

お侍ちゃんさん
お侍ちゃんさん(C)日刊ゲンダイ

 クローン病は、消化管に炎症や潰瘍ができる原因不明の国が指定する難病です。口腔から肛門までのどの部分にでも起こり得ると言われていまして、私の場合は小腸だったのですが、難病だけにその線引きは厳密でなかなか確定診断されませんでした。だから確定されたときは、ショックよりも「これでやっとみなさんに説明ができる」とホッとしました。

 事のはじまりは今年1月末の腹痛です。消化不良や膨満感は日常的にあったのですが、いつもよりも強めの痛みに近所の町医者を訪ねました。すると「胃腸炎」と診断され、処方された薬を飲みました。でもまるで効かず、再び町医者を訪ねると「総合病院でCTを撮ってほしい」とのことでした。

 折しもミュージカルの稽古が始まったばかりで、休みたくない私は痛み止めの点滴で今日をしのいで、翌日の稽古休み日に総合病院に行こうと考えました。しかし、点滴を終え稽古場に向かう間に痛みが増してしまい、仕方なく総合病院へ行ってみたらば、もう動けなくなり、そのまま入院となったのです。

 CTの結果、やはり胃腸に炎症が認められ、絶食と抗生物質の点滴となりました。これでよくなると思ったのですが、痛みが強くなるばかり……。医師から「小腸の炎症かもしれない。でもうちには小腸の検査設備がないので大学病院に転院してもらいます」と告げられました。

 一番つらかったのはこの後です。というのも転院の前に、胃と大腸に問題がないことを確定しなければならず、胃カメラと大腸検査をしたのです。すでに体力が低下していて下剤を飲むのも一苦労な中、それをなんとか耐え抜いて検査を終えて転院したら、なんと転院先の大学病院でも再び胃カメラと大腸検査をするというではありませんか! 1週間に2回もの同じ検査……。私には、もう下剤を飲む力は残っておらず、最後の手段で肛門にホースを入れ、お湯で流し出すという状態でした。

 腹痛から大学病院に行くまで約2週間。胃腸炎と思っていた私にも焦りが出始め、本番まで1カ月と迫ったミュージカルの降板も考えざるを得なくなりました。

 胃と大腸に異常がないと判明し、小腸内視鏡検査を済ませたところで医師が言うには、「たぶんクローン病じゃないかと思う」というあいまいな診断でした。症状は明らかにクローン病でも、難病ゆえに確定するには決め手に欠けるというわけです。でも、クローン病の治療であるステロイド点滴でたちどころに数値が良くなったことで、やっと確定に至りました。

 前の病院から数えて4週間の絶食により体重はマイナス15キロと激やせしましたが、エレンタールという液体栄養剤と流動食で体力を回復させるとともに、点滴によるステロイド量を段階的に減らしていき、錠剤程度の量にできたところで退院となりました。トータル40日の入院生活でした。

■1日に摂取していい脂質はテリヤキバーガー1個分

 いまは寛解状態です。自分の細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患なので、免疫抑制剤と液体栄養剤を服用しながら、おかげさまで仕事をしています。劇的に変わったのは食事で、揚げ物、炒め物は極力食べないように心掛けています。摂取していい脂質は一般成人男性の半量の1日30グラム。これはテリヤキバーガー約1個分です。しかも、この食事制限は一生続くものです。こう言うと、みなさんに驚かれ、気の毒がられるのですが、食べられるものの範囲内で結構楽しめているので、特に悲観はしていません。なにより体が痛みを覚えているから、「食べなくていいや」という気持ちになるのです。

 ただ、この病気は10年間で手術をする人が7割とのこと。つまりのちのち手術や人工肛門などの可能性もあるというわけ。まあ、医学は日進月歩ですので特効薬ができることを期待してやまないのですが……。

 病気以降、ストレスをためない生活を心掛けています。そして「やりたいことはすぐにやろう」と思うようになり、実際すぐに始めたことがあります。同じクローン病の人と会って話を聞くことです。公開しているメールアドレスに全国から連絡をいただいていまして、退院から半年余りで7、8人とお目にかかっています。クローン病患者の旗振り役になるつもりはないのですが、情報が欲しい人にはどんどん渡し、私自身も情報を得て、多くの人と情報共有したいと思っています。

 体調は順調に回復しています。ただ、食リポの仕事で食事を残すのはお店の方に申し訳ないので、数軒完食すると3日間は下痢です。仕事帰りにしんどくなって、ヘルプマーク(内部障害や難病の人のためのストラップ)をつけても電車で席を譲られたことは一度もないですし、病気で取りこぼす仕事もあって悔しい思いもします。ですが、病気だから得られる仕事もあるので、それほど落ち込んではいないですね。

 侍のなりをして、これまで妻にも弱音を吐かずにきましたが、今は妻におんぶにだっこ。人生、わからないものです(笑い)。

(聞き手=松永詠美子)

▽おさむらいちゃん 1981年、岩手県生まれ。コンビでお笑いを始め、大学卒業後にピン芸人になる。地毛で結ったちょんまげをトレードマークにお笑いライブ、イベント、テレビ、ラジオなどで活躍。今年に入り難病のため入院していたが、夏から本格復帰した。テレビ埼玉「マチコミ」にレギュラー出演中。

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