上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

iPS細胞を使った重症心不全治療の臨床試験に期待している

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

■日本の技術同士がコラボした再生医療

 一方、iPS細胞は心筋そのものにも分化します。砂漠に種をまいて水をかけ、オアシスをつくるイメージです。iPS細胞から分化させた心筋細胞をそのまま心臓に注入しても、もともと心臓は筋肉が豊富で常に脈打っているため、なかなか定着せず、数日から数週間程度で消えてしまいます。それが、シート状にして貼り付けるとしばらく残っています。その間に、衰弱した心臓の表面に心筋の膜が1層でも2層でも新たに作られれば、心機能の回復が期待できるのです。

 iPS細胞は京都大の山中伸弥教授が開発した技術で、心筋シートも女子医大の研究チームが開発した技術です。今回の治験で行われる治療は、日本の技術同士がコラボした再生医療なのです。

 動物実験では大型の部類でも有効性と安全性が確認されていて、かなり期待できるラインまで到達しています。手続きのうえでは、あとはヒトで確認できるかどうかの段階まで来たということです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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