この時期が旬のきのこ類は、なにより風味が大切です。きのこ本来の香りを逃さずいただくためにも、水で洗わないことが重要になります。
今回の食材のなめこも同様です。山でとれた天然のものを使う場合でも、汚れはペーパータオルで拭き取ってください。水で洗うことによって、風味やうま味が飛んでしまうからです。
今回は軽く火を通しただし浸しと、完全に加熱したなめたけの2品にしました。
だし浸しはなめこをストレーナー(金属製のざる)に広げ、上から熱湯をかけることによって軽く火を通します。
この「不老不死レストラン」は塩分を控えることが大きなテーマになっています。ただ、単に塩分を控えるだけでは、どうしても物足りなく感じてしまう。そこで控えた塩分を、うま味によって補う。だし浸しはそのために有効な調理法のひとつです。醤油を加えるのではなく、だしに浸すことによって塩分を控える。今回はそうやって塩分を抑えると同時に、だしによってなめこ本来の風味やうま味を引き立ててあげるのです。
低カロリーのなめこには食物繊維のほかに腸内環境を改善するβグルカンや二日酔いを防ぐ働きのあるナイアシンが含まれていますので、お酒のおつまみとしてもおすすめです。
他のきのこと比べて傷みやすいため開封後はすぐに食べ切る必要がありますけど、真空パックのまま冷凍保存すれば2~4週間はもちます。なのでストックしておくと便利です。
■ホウレンソウとのだし浸し
《材料》
◎なめこ 2パック
◎ホウレンソウ 1束(硬めに塩茹でして冷水にさらし、水気を絞り、長さ3センチに切る)
◎だし汁 1カップ
◎酒 大さじ2
◎塩 小さじ2分の1
◎薄口醤油 大さじ1
◎ゆず汁 大さじ1
《作り方》
なめこをザルなどに広げ、熱湯を回しかけ(写真)、水気を切る。だし汁、酒、塩を煮立て、薄口醤油とゆず汁を加えて火を切る。常温になったらホウレンソウとなめこを加え、和える。器に盛り、好みで針ゆずを散らしてもよい。
■自家製なめたけ
土鍋、または準じた鍋に、なめこ3パックとえのきだけ1パック(石づきを除き、半分の長さに切り、ほぐす)、ショウガみじん切り大さじ1、酒2分の1カップ、水2分の1カップ、みりん大さじ2を入れて7~8分煮る。醤油大さじ1を加え、さっと火を通す。茹でた野菜にかけても、酒のサカナにも、ご飯のお供にも。
▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。
なめこで二日酔い防止 控えた塩分をだしで補って
今月のトピックはネバネバ食品。なめこ、里芋、もずく、長芋などを取り上げたい。ネバネバの正体は水をたっぷり含んだ食物繊維。なので健康に良い。消化されないのでカロリーはほとんどない。かわりに粘膜保護作用、整腸作用がある。
なめこのネバネバは本来、きのことしてのなめこが、乾燥や凍結から身を守り、また虫害などにあわないための自己防御法として編み出したものだが、この独特の食感を好んだ人間に食べられてしまうとまでは予想できなかったはず。
スーパーで売られているパック商品は、人工栽培されて早摘みされたものだが、一度洗ってあるので日持ちがよくない。すぐに酸っぱくなってしまう(表面で乳酸発酵が起きるため)。天然もののなめこは、もう少し大ぶりで歯ごたえもしっかりしている。
ちなみになめこを含むきのこ類は植物ではない。動物、植物の他に第三の生物界をつくる“菌類”である。動けないけど、光合成もできない。他者に寄生するしかない。しかし、ただのりしているわけではなく、自然界の「分解者」として重要な役割を果たしている。とくに他の生物が分解できない木質(リグニン)が分解できる。なので樹木が自然に戻る。きのこが寄生する樹木はきのこによって好みがある。天然なめこはブナにつく。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。