ガイドライン変遷と「がん治療」

大腸がん<1>0期内視鏡は2cm未満対象から「大きさ不問」へ

写真はイメージ
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大腸癌治療ガイドライン」(大腸癌研究会編纂)の初版が出たのは2005年のこと。最新のものは19年版(第6版)です。

 大腸がん治療の中心は手術ですが、進行度(ステージ)と手術適応の関係が重要です。しかし、それについてはすでに確立されているため、初版と最新版で大きな違いはありません。

 ステージ0(がんが大腸の粘膜層にとどまっている状態)なら、内視鏡治療が可能です。

 お尻から内視鏡を入れ、先端から特殊な器具を出して、がんを粘膜ごと切り取るのです。体への負担が少なく、2~3日の短期入院で済みますし、術後の再発などの心配は、ほとんどありません。

 初版から第3版(10年)までは、がんの長径が2センチ未満という条件が付いており、それを超えるものは大腸の部分切除が推奨されていました。

 それが第4版(14年)以降、大きさは問わないと書き換えられました。技術の進歩が、大きながんの切除を可能にしたのです。

 ステージⅠ~Ⅲは手術の対象になります。腫瘍から前後10センチずつマージンを取って切除するのが基本です。

 ステージⅣ(他臓器転移がある)でも、可能な限り手術するのが標準治療になっています。原発巣が切除可能であれば、まずそれを切除し、さらに転移巣も可能なら、そちらも切り取ります。あるいは、現状では手術不可でも、抗がん剤で小さくしてから切り取ることも行われています。この手術方針は、ガイドラインの初版以来、変わっていません。

 変わったのは腹腔鏡手術に関するものです。初版ではステージ0~Ⅰの結腸がん(大腸のうち直腸を除く部分のがん)が適応でした。それが第2版(09年)では、がんの部位や進行度、患者の状態などに加え「術者の経験、技量を考慮して適応を決定する」に変わり、現在に至っています。ただ開腹手術よりも治療効果が優れているというエビデンスが不足しているため、推奨度は2(弱く推奨:19年版)になっています。

 とはいえ17年の統計によれば、結腸がんの約64%、直腸がんの約66%が腹腔鏡手術でしたから、すでに標準治療のひとつになっていると言っていいでしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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