上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

iPS細胞による再生医療が広まるには議論を深める必要がある

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 一方、いま計画されているiPS細胞治療は患者さん自身の細胞ではなく、事前にほかの健康な人から採取して培養したうえで、ストックしてあるものを使います。最初から一定の品質が担保されているので、いわば薬に近い状態といえます。iPS細胞バンクなどの施設が整備され、たくさん供給できる体制が整えば、費用は抑えられていくでしょう。

 費用の問題は、治療の対象となる患者さんが絞られてしまう可能性につながってきます。かつて米国では、心臓移植は最重症の心筋症の患者さんが対象でした。しかし、全身状態が非常に悪い患者さんは術後の生着率やQOLが低いため、費用対効果が考慮されてターゲットが変更されました。もう少し条件の良い、これからどんどん悪くなっていく段階の人、悪くなりきる手前にいる人を対象にするようになったのです。

 今回、大阪大で実施されるiPS細胞による治療は、最悪な状態の少し手前の患者さんがターゲットになっています。しかし、結果によっては、有効性と費用のバランスが考慮され、さらに手前、たとえば「いまは薬で管理できているが、いずれ悪化していく可能性が高い」段階の患者さんが対象になる可能性もあるのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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