Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

免疫療法&放射線注目「アブスコパル効果」より高めるには

京大・本庶佑特別教授の研究でオプジーボ開発が実現
京大・本庶佑特別教授の研究でオプジーボ開発が実現(C)共同通信社

 抗がん剤にしろ放射線にしろ、がん細胞で生じる遺伝子変異によって、どんな治療も次第に効果が薄れることについて前回、触れました。ところが、オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害剤と放射線を組み合わせることで、免疫力が増強され、大きな治療効果が得られる可能性が分かってきたのです。

 注目の治療効果は、アブスコパル効果といいます。放射線は局所の病巣にピンポイントで正確に照射するのが主流。そうやって照射すると、遠隔転移した病巣も縮小したりすることがある。それがアブスコパル効果で、これまでごく一部に見られたのですが、免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせで高率で発生させるメカニズムが見えてきたのです。

 その仕組みを解説する前に、米テキサス大MDアンダーソンがんセンターの研究チームが報告した臨床例を紹介しましょう。甲状腺未分化がんの患者は肺に5カ所の転移があったそうで、ヤーボイと呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤と放射線を組み合わせた臨床試験に参加。肺の転移巣のうちの1カ所に放射線を照射すると、ほかの病巣もすべて1年で腫瘍が消えたのは驚くべき効果でしょう。

 甲状腺の未分化がんは治療法が確立していなくて、極めて予後が悪い。この結果を受けて、米国では甲状腺未分化がんに対する免疫チェックポイント阻害剤と放射線を組み合わせた臨床試験が複数行われています。

■種類は問わない

 なぜそんな効果が得られるのでしょうか。がん細胞は、免疫から攻撃されないようにブロックする仕組みを備えているのですが、放射線を照射すると、がん細胞の免疫ブロックを破り、免疫がしっかりと機能し、がん細胞を叩くリンパ球が増える可能性があることが分かりました。がん細胞攻撃の指示系統も、しっかり機能するようになることも分かっています。

 そうしたことから、アブスコパル効果をより高めるには、免疫チェックポイント阻害剤で免疫を底上げしてから、放射線を照射するのがいいとされます。大阪大で行われた非小細胞肺がんに対するオポジーボと放射線を組み合わせた臨床試験でも、オプジーボを2週間ごとに静脈内投与し、投与から7日以内に局所放射線治療を加えていました。

 アブスコパル効果で照射部位から離れた部位への治療効果があるのは、患者さんにとってとてもメリットが大きい。原則として、放射線は同じ部位に2度照射できませんが、アブスコパル効果があれば転移巣への照射で、すでに照射している原発巣にも治療効果が得られることになります。免疫力で目に見えないがんを叩き、放射線の照射をなるべく小さくすることも期待できるでしょう。アブスコパル効果は、がんの種類を問いません。がん治療を大きく変える可能性を秘めているのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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