がんと向き合い生きていく

認知症の母親に胃がんが発覚…それでも母は私の生きる希望

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Fさんの話を聞いた私は、すぐに母のことを思いました。認知症があってもなくても、がんの治療ができる状態なら医師は治療をするのが当然だと思います。認知症でも、がんが治る状態で、治療可能で延命できるなら、医師として治療に当たる。手術できる状態なら、手術するのが当たり前でしょう。

「命を延ばすことの意味があるかを考えろ」とはどういうことなのか? 医療費がかさむから、介護が大変だからという理由なのでしょうか? 私は母に早くいなくなって欲しいなんて一度も思ったことはありません。

■認知症の患者はがん治療しても意味がないのか

 65歳以上の方の7人に1人が認知症で、2025年には5人に1人になると推計されていると聞いています。オーストリアの精神科医、V・E・フランクルは「社会に役立つことが人間の存在を測ることのできる唯一の物差しではない」「人間の生命を生きる価値のない生命とみなして、その生きる権利を剥奪する権利はだれにもない」と言っています。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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