スマホやパソコンなしの生活をもはや考えられない人が大半だろう。その影響を受けて、増えているのが角膜のトラブルだ。どう対策を講じるべきか? 東邦大学医学部眼科学講座教授の堀裕一医師に話を聞いた。
今年はじめ、衝撃的な海外ニュースがネット上で話題になった。仕事の必要から、昼夜の別なくスマホ画面の明るさを最大にして見続けていた25歳の台湾人女性が約2年後、「目が電子レンジで焦げた状態になるほどのダメージを受けた」というものだ。
女性が目の痛みと充血で眼科を受診したところ、左の視力は0・6に、右の視力は0・3に低下。角膜には無数の傷があった。
女性のスマホ画面の明るさは625ルーメン(光の単位)で、医師は、600ルーメンの明るさを2時間目にさらすだけで、前述の“電子レンジで焦げた状態のような目”になると指摘。
「角膜は目の表面にある透明な膜で、レンズとしての役割を担っています。従来は涙に覆われ角膜が守られていますが、スマホやパソコンを日常的に使うことで、まばたきの回数が減り、涙の量が減少。角膜が損傷を受けて、目のトラブルが生じるのです」
角膜の損傷には「角膜びらん」や「遷延性角膜上皮欠損」などさまざまな病気があるものの、最も多いのは「ドライアイ」だ。〈表〉で挙げた項目のうち4点以上該当する場合は、眼科を受診した方がいい。
■検査で分かった「自覚症状はなし」
実は記者も堀医師に角膜の状態を調べてもらった。すると「左目は角膜に傷がついていないが、乾きやすい。右目は角膜に傷があり、乾きやすい。左右ともにドライアイ」という結果だった。
慣れて特に自覚していなかったが、〈表〉にある症状はいくつも該当した。
「ドライアイは失明に至るような重大病ではありませんが、QOL(生活の質)を著しく下げます。患者さんの中には、視力そのものは悪くないのに、ドライアイがひどく、『目を開け続けるのがつらい/痛い』からと、本を読んだり映画を見たりすることもできないとおっしゃる方もいます」
ドライアイはコントロール可能だ。自宅でできるケアとしては――。
①角膜を修復する作用のあるビタミンA入りの点眼薬をさす
②スマホやパソコンを見続けない。1時間ごとに休息し、意識してまばたきの回数を増やす
③軽い運動や体操をする
④ホットアイマスクなどで目の周りを温め、涙液の蒸発を防ぐ油層を産出する「マイボーム腺」の詰まりをとる
などがお勧めだ。
治療としては、点眼薬、保護用メガネ、涙の“流れ口”に栓をする涙点プラグなどがあるが、自費になるものの、もっと積極的な治療法もある。
専用機器でまぶたに熱と圧力をかけ、マイボーム腺に詰まった汚れや角質を取り除く「リピフロー」、フラッシュを照射してマイボーム腺を刺激し、油脂の分泌を促進する「イーアイ」だ。
「いずれも日本では機械が認可されておらず、行っている医療機関は少ないですが、海外では普通に行われています」
白内障手術やレーシック(屈折矯正手術のひとつ)はドライアイのリスクを高める。特にレーシック手術は、角膜を切るため確実にドライアイになる。事前にドライアイの治療をする、ドライアイになりにくい屈折矯正手術を選ぶ、などの対策を講じた方がいい。
■4つ以上該当なら受診を
①パソコンを毎日連続1時間以上見る
②通勤時にスマホを見る
③スマホで動画をよく見る
④平均睡眠時間が5時間以下
⑤コンタクトレンズ使用
⑥寝ても疲れ目が解消しない
⑦朝から目がかすむ
⑧光がまぶしい
⑨目がショボショボする
⑩目が重たい感じがする
⑪目が痛いことがある
⑫目を10秒以上開けていられない