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【胃】40歳を過ぎたら内視鏡検査かABC検査を受ける

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 空腹時にみぞおち付近の痛み(心窩部痛)を引き起こす「胃潰瘍」。胃酸から胃粘膜を守る防御機能が低下し、胃粘膜の傷ついた部分が潰瘍となる。ストレスが誘因で起こることが多いが、特に大きな原因となるのが胃にすみつく「ピロリ菌」の感染だ。

 感染経路はハッキリ分かっていないが、免疫機能が十分でない幼児期、飲み水や食べ物を介して口から感染すると考えられている。上下水道が整っていなかった時代に生まれた世代の感染率が高いが、衛生環境が整備されている現在の若い世代の感染率は低くなってきている。しかし、胃潰瘍の7~8割、十二指腸潰瘍の8~9割、胃がんの9割以上がピロリ菌感染が原因とされる。胃の不調を繰り返す人は感染の有無を調べた方がいい。

 胃にすみついたピロリ菌はどんな悪さをするのか。「鳥居内科クリニック」(東京都世田谷区)の鳥居明院長が言う。

「ピロリ菌に感染すると胃粘膜の炎症が持続し、粘膜の防御機能が低下します。つまり慢性胃炎の状態が続くのです。そして粘膜に傷がつくと胃潰瘍や十二指腸潰瘍に進行します。そうでなくても、長年かけて炎症が続くと胃粘膜が薄くなって萎縮する『萎縮性胃炎』になります。こうなると胃がんを発症しやすくなるのです」

 ピロリ菌の感染率は、今の小学生であれば20%以下。30代以上は各世代から「5」くらいを引いたパーセンテージといわれる。

 しかし、ピロリ菌に感染していた場合、早期に除菌治療するほど胃がんの予防効果が高い。そのため一部の自治体では、中学生を対象にピロリ菌検査の実施を始めているところもある。

■ピロリ菌除菌は18~20歳がベスト

 検査には内視鏡で胃の組織を採取して調べる方法と、内視鏡を用いない方法(尿、便、呼気、採血)がある。子供の場合は侵襲の少ない尿検査で行う自治体がほとんどだという。陽性であれば呼気検査を行い、感染が確認できたら除菌治療を勧めるといった具合だ。

 本来、除菌前に胃がんがないか、一度は内視鏡検査を受ける必要があるが、15歳未満は胃がんの発症リスクが少ないので、内視鏡検査をせずに除菌治療を行うという。

「ピロリ菌は3歳ごろまでに感染して、高校生から大学生くらいから萎縮性胃炎が始まり、40歳を過ぎたくらいから症状が出てきます。ですから除菌は早ければ早いほどいい。一般的には18~20歳くらいに本人の意思で除菌を受けることが勧められます。そして内視鏡検査を受けてない人は、40歳を過ぎたら一度は受けるべきです。内視鏡を嫌う人は、せめて『ABC検査』を受けた方がいい。血液検査で胃がんのリスクが分かります」

 ABC検査は、ピロリ菌の感染を示す「ピロリ菌抗体」と、胃粘膜の萎縮の程度を表す「ペプシノゲン」の血中濃度を測定する検査。この2つの検査の陽性(+)と陰性(-)の組み合わせで、胃がんの危険度をA~C群の3つのグループに分けて評価する。

 A群は胃がんのリスクが非常に低い。B群はA群に比べて約10倍のリスク。C群はA群に比べて約20倍のリスク。たとえピロリ菌を除菌しても胃粘膜の萎縮はすぐには元に戻らない。ABC検査の結果で、定期的に内視鏡検査を受けた方がいい間隔がある程度分かる。完全に安全というエビデンスはないが、一般的にはA群は最低5年に1回、B群は2~3年に1回、C群は1年に1回が目安になるという。

 もうひとつ、高齢化に伴い近年、胃潰瘍の原因として問題にされているのが「薬剤性潰瘍」だ。

「中高年になると腰や膝の痛みなどの症状を抱える人が増えるので、エヌセイズ(非ステロイド性抗炎症薬)を常用している人がたくさんいます。エヌセイズは胃粘膜を保護するプロスタグランジンという物質を作る酵素を阻害するのです。そのため胃潰瘍になりやすい。ピロリ菌に感染していてエヌセイズを飲んでいる人はダブルパンチで最悪です」

 エヌセイズといっても分かりにくいが、商品名でいえば「ボルタレン」「ロキソニン」「バイアスピリン」などの馴染みのある薬で、脳卒中や心筋梗塞で血液をサラサラにする低用量のアスピリン(抗凝固剤)もその一種だ。

 病院の処方薬では、相談すればプロスタグランジンを阻害しない痛み止めに変更できる。市販薬を常用している人は注意しよう。

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