遺伝子治療薬はここまで来ている

2万種の遺伝子から病気の原因遺伝子を同定するのは難しい

写真はイメージ
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 遺伝子治療薬は、病気を根本的に治すことができる夢の薬のようなイメージを抱いている人も多いでしょう。なぜ、そんな夢の薬がこれまで開発されてこなかったのでしょうか。それにはさまざまな困難がありました。 まず第1に、本格的な遺伝子研究が盛んになった近年まで、わからないことが多かったからです。遺伝子のもとであるDNAが発見されたのは1940年代ですが、ヒトの全DNA配列が明らかになったのは2000年のことです。そのことから遺伝子は約2万種類であることがわかってきました。

 遺伝子研究そのものはそれ以前から行われていて、1980年代には疾患に関連する遺伝子の一部は発見されてきました。しかし、遺伝子治療薬を作ろうにもその標的となる遺伝子、いわゆる病気の原因遺伝子の大部分がわからなかったのです。

 2万種類ある遺伝子の中から、正常と比べてほんの少しだけ配列が違う病気の原因遺伝子を同定するのは簡単ではありません。また、わかったからといって、すぐに薬が作れるわけではありません。そのため、原因遺伝子は疾患の同定(遺伝子診断)に先行して用いられてきました。

 第2に製剤化する難しさがありました。薬として使うためには、効果もそうですが、まず安全でなくてはなりません。安全に使うためには、毒性がないことに加えて、標的にだけ薬が運ばれる必要があります。

 まず、標的とする臓器だけに薬を届けるというのは非常に難しいことでした。さらに、臓器に届いた後、細胞の一つ一つに遺伝子を入れていかなくてはならないのですが、これもまた大変なことなのです。近年になって、遺伝子の安定性を高める技術と、細胞に導入する技術が急速に高まったことも遺伝子治療薬が使われるようになった大きな要因です。

 そうしたさまざまな困難がありながら、世界中の研究者によって見いだされた遺伝子治療薬に関する研究結果と技術躍進によって、遺伝子治療薬が実際に薬として使われる下地が整ってきたのです。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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