がんと向き合い生きていく

医師が命を助ける努力を怠れば命が軽くなり過ぎてしまう

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Kさん(70歳・男性)は、胃がんの手術を受けた後、1年間の抗がん剤内服も終わり、再発なく元気です。それでも手術前より8キロ減った体重は戻らないままです。昨年は奥さんに先立たれ、いまはひとり暮らしです。

 以前から高血圧があって降圧剤が処方されているため、2カ月に1回のペースで外来に来られます。そのKさんがこんなお話をされていました。

「私の家の隣に94歳の男性がひとりで暮らしています。先日、縁側で日なたぼっこをしていて意識を失っているのが見つかり、救急車で病院へ運ばれて点滴注射を受け、復活したそうです。熱中症だったのでしょうか。ただ、本人はそのまま死にたかったようで、仏壇には遺書が置いてあったらしいのです。あのまま死なせてあげることはできなかったものですかね? あの人は人付き合いが悪いんですが、以前、私に『自然に死にたい』と漏らしたことがあったんです。あのまま死なせてあげたかった気もするんですがね。今は病院から家に戻って、ケアマネさんが入って、時々ヘルパーさんに来てもらっているようです」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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