独白 愉快な“病人”たち

格闘家の征矢貴さん「クローン病」との壮絶バトルを語る

征矢貴さん
征矢貴さん(C)日刊ゲンダイ

「自分が生み出した病気は自分で治せる」

 これはステージ4のがんから寛解した知人の言葉です。医師に「治らない病気」と言われると「そうなんだ」と思って言われるがままに薬を飲み続けてしまいます。僕はあのままだったら格闘家を続けられなかったかもしれません。

「クローン病」と診断されたのは、2017年の9月でした。その3カ月前から調子が悪く、腹痛がしてトイレに行くものの、ほとんど便は出ないという状態を繰り返していました。

 その回数が1日10~20回にも及び、さすがにおかしいと思って病院に行って、大腸内視鏡検査を受けてわかりました。

 じつは、18歳で「痔ろう」になった時、医師から「若い人の痔ろうはクローン病が隠れている可能性がある」と言われて検査をしたことがあったんです。その時はセーフでしたが、頭の片隅には病名が残りました。

 クローン病は自己免疫機能が暴走して消化器官のどこかに炎症や潰瘍を起こす病気で、国が指定する難病のひとつです。僕は大腸に炎症が起こり、便が出にくくなっていました。医師から「治らないけど、薬を服用すれば普通の生活はできます」と言われたので、僕は「症状が落ち着くなら試合もいける!」と思い、特に悲観しませんでした。でも、あとから考えれば格闘家は普通の生活とはかけ離れているので、遠回しに「やめろ」と言われていたのかもしれませんね(笑い)。

 翌10月に39度の高熱が出て病院に行ったら、「大腸が腫れている」となって入院になりました。1週間ほどで退院しましたが、その後は薬が段階的に替わっていきました。弱めの「ペンタサ」はまったく効かず、効果絶大だったステロイドは数週間で使用期間の限度になり、次には生物学的製剤のひとつである「ヒュミラ」を使用しました。1本7万円の注射を2週間に1度打たなければならないので、この時、難病申請をして医療費受給者証を取得しました。

 前述した知人に相談したのが、その頃です。まず言われたのが「病気は公表した方がいい」ということ。それは、いろいろな人が情報をくれるという理由と同時に、「プライドを捨ててちゃんと病気を受け入れろ」という意味でした。

 僕は子供時代、喘息やアレルギー性鼻炎などでしょっちゅう病院通いをしていました。だから強い者に憧れ、格闘家になったんです。弱い自分を認めたくなかったし、格闘家としてのランキングも落としたくなかった。でも、積み上げてきたものをいったん手放すことが病気を受け入れる一歩になるんだと考えを改めました。

 そして、「自分が生み出した病気は自分で治せる」という言葉がストンと胸に落ちてきました。外部から悪いモノが入ってきたわけではなく、自らが免疫機能を誤作動させる何かを生み出したわけですから。

■腸が腫れて便が通るたびに激痛でうずくまる

 ヒュミラも効かなくなってきたのが去年の半ばでした。生物学的製剤は3~4種類あるけど、いずれは全部効かなくなってしまう。最終的には手術しかなく、手術をしたら格闘技はできないと思ったので、何とかしなければ……とネットで必死に調べました。

 それでヒットしたのが「大阪の松本医院でクローン病が治りました」という一文でした。詳しく調べてみると、ステロイドなどを使わず、自分の免疫力で治す病院だと知り、「これだ」と思って去年の9月ごろにさっそく大阪まで出向いたんです。

 独自の理論を持つユニークな院長は、生物学的製剤を一切やめ、漢方薬と鍼と抗ヘルペス剤で僕を寛解まで導きました。その道のりには、薬をやめたことによる壮絶な症状悪化が伴いました。腸が腫れて狭窄してしまうので、便が通るたびに激痛でうずくまる毎日……。食欲はうせ、高熱も出て、とにかくキツイ。それが1カ月ほど続きました。それでも「試合に出る」という明確な目標があったから耐えられました。もしそれがなければ痛みに耐えきれず、生物学的製剤に頼って振り出しに戻っていたかもしれません。

 僕は短い方でしたが、生物学的製剤を長く使っている人ほど、苦しい期間も長いと聞きました。今は、調子が悪い時に漢方薬を飲む程度です。鍼はお守り的に週1回通っています。

 この病気は自分の免疫力が正常な組織を攻撃してしまうので、多くの治療では免疫力を抑える薬が使用されます。でも、それは一時的に症状を抑えるだけで、薬に頼る体をつくってしまう。根本的には逆に免疫力を上げることが寛解への道。その過程では壮絶な闘いがありましたが、乗り越えた僕は今、薬からも症状からもほぼ解放されました。

 免疫機能を狂わせる主犯はストレスだと思っています。なので、なるべくノンストレスで生きていこうと思うようになりました。まあ、生きていればノンストレスなんて無理ですけど、トレーニングはどうしたら短時間で集中してできるかを考え、生活ではなるべくポジティブな人の近くにいるようにしています。

 (聞き手=松永詠美子)

▽そや・たかき 1994年、千葉県生まれ。15歳で総合格闘技道場「パラエストラ松戸」に入門。総合格闘技団体「修斗」のアマチュア選手権で頭角を現し、2012年にプロデビュー。その試合でKO勝ちし、翌年には修斗バンタム級新人王とMVPを獲得する。18年に病気を公表して療養後、19年には総合格闘技団体「RIZIN」で復帰し、勝利を収めた。

関連記事