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有名俳優も発信「血液クレンジング」はなぜ批判されるのか

市川海老蔵(左)と森光子
市川海老蔵(左)と森光子(C)日刊ゲンダイ

 歌舞伎の著名な俳優である市川海老蔵さんが受けていた「血液クレンジング」治療が話題になりました。国民的女優だった森光子さんも生前(2012年逝去)、スイスで受けていたそうです。

 患者さんから100~200㏄の血液を抜いてオゾンガスを混合し、点滴で体内に戻す治療法で、「オゾン療法」「大量自家血オゾン療法」とも呼ばれています。

 クリニックによっては老化防止や疲労回復、さらにはがんなどの病気にも効果があると謳っていて、その体験記をSNSやブログに投稿する芸能人も少なからずいらっしゃるようです。そのせいか、私の患者さんにも「やってみたいのですが……」と相談に来られるケースが増えています。

 結論から言えば、「エビデンスが乏しいため、私はおすすめしません」。

 この治療法は半世紀ほど前、ドイツなど欧州の医療機関からスタートしたといわれています。

 オゾンとは酸素原子(O)が3つ結合したにおう気体のことです。強力な毒性(酸化能力)があり、脱臭や殺菌などに効力を発揮します。有害な紫外線から生物を守る「オゾン層」をイメージする人も多いと思います。このオゾンを血液に加えると血液が浄化され、細胞が活性化し、体が元気になるというのが血液クレンジング治療を積極的に行っているクリニックなどの言い分です。では、本当にそのような効果があるのでしょうか?

 血液クレンジングを受けた人は「ドス黒い血液がオゾンを注入したら鮮やかな赤色に変わった」ことに感動し、効果があると感じるようです。しかし、これは単に血液中赤血球のヘモグロビンに酸素が結びつくことにより起こる現象です。クレンジング治療をしなくても、普通に呼吸をしていれば酸素を含んだ動脈血は赤くなります。

 先ほどもお話ししましたが、オゾンには強力な毒性があります。そのため、臨床用には酸素や空気で20倍以上薄めて使われます。この酸素を吹き込めば、血液が鮮やかな赤色になるのは当然なのです。

 一方で過剰なオゾンや酸素は体内に活性酸素をたくさん作り出し、遺伝子やタンパク質などを傷つけることが知られています。その結果、さまざまな病気や老化が進行するとされています。

 クレンジング治療を行い、具合が良くなったという報告がありますが、少数の患者の主観的改善効果に過ぎないものが多く、医学的根拠に乏しいのが現実です。治療の安全性に関しても、致命的な合併症のHIT(ヘパリン起因性血小板減少症=ヘパリンの反復使用で、血小板が減少するにもかかわらず、血栓ができて血管が詰まる)については明確な記載がされてません。つまり、医学界全体が認めたエビデンスのある治療法ではないのです。そして、米国FDA(食品医薬品局)は今年の勧告で、「オゾンの人体への使用は危険で、医学的にも有効性の証明がない」と明確にオゾン療法を否定しました。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。

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