病気を近づけない体のメンテナンス

【胃】手術後の食事はよく噛む、ゆっくり食べる、腹七分目

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 胃がんの原因となるピロリ菌の感染は若い世代では減っているが、いまだに胃がんの罹患率は高い。早期であれば内視鏡で簡単に治療できるが、胃を切除したとなるとその後の生活にいろいろ影響が出てくる。どんな変化が起こるのか。帝京大学医学部付属病院外科(上部消化管)の福島亮治教授が言う。

「胃の大きな役割は食べ物をいったんためて、少しずつ十二指腸に送ることです。だから人は1日3食でいいのです。胃を切除して困るのは、そのためる機能がなくなるので一度に多くの量を食べられなくなること。それに食べた物が急速に腸へ送り出されるため、慣れるまでさまざまな症状が出たり、食事を取りにくくなったりするのです」

 手術による胃の切り方は胃がんのできた場所、大きさや深さ、その広がりなどによって違う。特に術後の後遺症が出やすいのは、胃を全部取る「胃全摘」である。また胃の入り口側を切除する「噴門部胃切除」のように胃の上部を切った場合も、胃の出口側を切った「幽門側胃切除」より出やすい。胃の入り口(噴門部)付近には、食欲を高進させる消化管ホルモンの「グレリン」を分泌する細胞が多く含まれる。また、食道と胃のつなぎ目には、食べた物や消化液が食道へ逆流するのを防ぐ働きがある。手術で食道と腸を残った胃とつなげると、その逆流防止機能が弱くなる。すると胆汁や膵液の混ざった十二指腸液が逆流しやすく、残胃炎や食道炎を引き起こす。

 では、どんな食事の取り方をするといいのか。

「はじめのうちは一度にたくさん食べられないので、1日5~6回に分けて食べるようにする。3食の間におやつを2回取ったり、夜食を取るような感じでかまいません。だいたい1年くらいで食事量も徐々に増え、3食に戻っている人が多いようです。注意するのは、ひと口に30回くらい『よく噛む』『ゆっくり食べる』『腹七分目』です。それと水分は食べた物の腸内の通過を早めるので、食事中は少なめにした方がいいでしょう」

 それでも食欲不振と食事量の減少で、体重が10~20%減ってしまうことも少なくない。体重が減り続けたり、短期間に2~3キロ減ってしまう場合は、必要な栄養量が確保できていないことが考えられる。その場合、早い時期から飲む栄養剤「ONS」を使用するとよい。ONSは通販などで購入できるが、医薬品扱いのものもあるので、病院で処方してもらうこともできる。早期の体重管理が大切なのは、術後に抗がん剤を服用する場合、体重が減ると副作用が出やすくなり、飲めなくなることも起こるからだ。

「医療機関では、1日に必要なエネルギー量を呼気から測定する『間接熱量計』や『ハリスベネディクトの式』という推算式を用いて厳密に算出することができます。簡易式を用いた算出では1日のエネルギー必要量は、『25~30キロカロリー×体重(キロ)』でもおおよそ分かります。たとえば体重70キロの人なら、1日最低1750~2100キロカロリーが必要になります」

 術後の体重管理はできるだけ体重を落とさないこと。一度落ちるとなかなか増えない。もともと肥満だった人でも短期間に急激に体重が減少することはよくないという。

■体の負担にならない程度の運動を

 栄養量の次に、もうひとつ大切になるのは筋肉量の維持。つまり栄養を十分に取り、運動をすること。1日20~30分のウオーキングや5~10分ほどのスクワットでもいいので、体の負担にならない程度の運動を習慣にすることが大切になるという。

 また、お腹の手術をすると、腸は多かれ少なかれ癒着する。その癒着の仕方が悪いと、腸の内腔に細い場所ができたりして「腸閉塞」を起こしやすくなる。

「胃切除後の後遺症としての腸閉塞は、食べた物が腸管にとどまって通らなくなる障害です。あまり噛まないで早食いしたり、海藻やキノコ類など繊維の多いものを食べ過ぎたりすることなどが原因になります。早食いしたらお腹が痛くなったり、食後一定の時間が経つとお腹が痛くなったりする症状がある場合は、腸管に狭い場所がある可能性があるので、食事の取り方に注意した方がいいです」

 ただし、腸閉塞になっても、手術が必要となることは少なく、飲食をやめて消化管を安静にするなど保存療法で多くは治るという。

 脂肪分の多い食品は消化が悪いので、脂肪性下痢になりやすかったり、アルコールもすぐに腸に行くので、酔いやすくなる。しかし、注意する飲食品はあまり神経質になる必要はなく、何か症状があったら少し控える程度にした方がいいという。とにかく栄養量や体重の維持が大切になるのだ。

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