上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

研究は進むが…AIを使った診断と治療にはまだ課題が残る

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 AI(人工知能)を使った心臓疾患に対する診断の研究が急速に進んでいる現状について前回お話ししました。ただ、現場で本格的に運用するためにはクリアしなければならない課題があるのも事実です。

 まずは費用の問題です。AIを使った診断や治療を実際に行うとした場合、システム管理料がどれくらいかかるのかが明確になっていないのです。われわれを含め、医療現場ではAIを使いたいという声が多く聞かれます。たくさんある抗がん剤の中で、どんな種類の薬をどう組み合わせて使えばいいのかについて、個々の患者さんのさまざまなデータを打ち込むことで最適な回答を出してもらうといったケースです。現時点では単発で頼むことはできるのですが、それを継続的に運用するとなると、たとえば1カ月の契約のシステム管理料がどれくらいになるのかがはっきりわかりません。

 AIシステムを提供する側の体制はまだ完全ではなく、実用レベルに到達するほど成熟していないという印象です。囲碁や将棋といったゲームなどわれわれの日常生活に影響が出ないような分野では問題ないのですが、実生活に直結する“営利”が絡んでくるとまだまだ穴があり、「AI」という名前だけがどんどん独り歩きしてしまっている側面があるのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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