ゲノム診断で乳がんリスクが高いとわかったハリウッド女優は予防のために乳房を切除しましたが、そこまで金銭的に余裕がある人は多くないでしょう。となると、がんリスクが高いと診断されても、実際に発病するまで何も治療を受けられない患者さんは、ずっと不安を抱えながら生活することになります。ひょっとしたらがんを回避できる可能性もあるわけですから、「それなら悪い情報は聞きたくなかった」という人もたくさんいるでしょう。ゲノムやAIによる診断結果を、良い情報も悪い情報もすべて聞いて受け入れるのか。患者側は考えておく必要があります。
いまは、医師が患者さんに病状や治療について十分な情報を伝え、患者さんに納得してもらったうえで治療法を選択する「インフォームドコンセント」が欠かせない時代です。また、患者さんには知る権利もあれば、すべてを聞かない権利もあります。医療現場でAIを本格的に導入していくには、そうした医療倫理的な側面もいま以上に成熟させてからでなければ、大きな混乱を招くでしょう。
課題をひとつずつクリアして、AIによる診断や治療が当たり前になる日が来るのを期待しています。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」