前回のこの連載で、「糖尿病は“治る”」というお話をしました。「糖尿病はいったん発症すると治らない」がこれまでの常識。人間の体には、血糖が高くなれば低く戻す力が備わっています。しかし、ひとたび高くなると、その低く戻す力が破綻し、戻らなくなると考えられてきたからです。
しかし最近の研究で、糖尿病を発症しても早い段階で徹底した対策を講じれば、糖尿病は“治る”ことが分かってきました。英国の「DiRECT」(糖尿病を寛解するための臨床試験)という研究で発症後6年以内の2型糖尿病患者を調べたところ、食事療法や運動療法で集中的に体重コントロールに取り組んだ群では、1年後、内臓脂肪が減少し、血糖値が正常値まで低下。インスリン産生にかかわるβ細胞が正常化して膵臓がきちんと働くようになり、必要量のインスリンを分泌できるようになったことが確認されました。
ポイントは、「糖尿病発症後、早い段階での徹底した対策」。「DiRECT」では「発症後6年以内」を対象としており、さらに糖尿病が“治った”患者さんたちの平均罹患期間は2・7年でした。
これは、毎年健診を受けているからこそ、早くに糖尿病を発見でき、早くに糖尿病治療に取り掛かれるということ。ひいては、糖尿病が治る率も高くなる。もし健診を受けていなければ、当然ながら血糖値がどのような推移をたどっているかを知らないわけですから、早期発見は難しいでしょう。
糖尿病治療を受けながら人生100年時代を過ごすのと、そうでないのとでは、生活の質(QOL)がかなり変わってきます。ぜひとも毎年健診を受けてほしい。
一方で、矛盾するようですが、糖尿病は毎年健診を受けていても、早期発見が難しい面もあります。理由はいくつかあります。
まず、日本人は空腹時血糖値が高くなりづらい。次に、血糖値は季節によって変動するのですが、健診が一般的に行われるのは春で、この時季は血糖値が比較的低くなりやすい。血糖値が高くなるのは、秋・冬です。さらに、普段は好きに食べて飲んでいるような人でも、健診の前になると生活を改めがち。1週間くらい節制した生活を送れば、血糖値も中性脂肪も低くなります。
これらの理由から、実際の血糖値と健診で分かる血糖値には開きが出てしまうことがあるのです。
■患者であれば保険適用
加えて、血糖値の上昇は非常にゆっくりで、だいたい糖尿病と診断されるところまで10年くらいかかる。この間、徐々に上がっていくというより、じわじわ上がっていき、ある時ポーンと数値が跳ね上がる感じです。血糖値の数値を見るだけでは、ポーンと上がる直前なのか、そこまでいくのにまだまだ余裕があるのかが分かりづらいのです。
自分の血糖値がどういう状況なのか? 糖尿病を発症する前の人でも使えるツールとして便利だな、と思うのは、「自動血糖測定器」です。上腕部に500円玉の大きさのパッチを貼り、血糖値を記録するセンサーでスキャンすると、いつでもどこでも服の上からでも、簡単に「今」の血糖値を測定できます。2017年から糖尿病患者に対して保険適用になっています。インターネットでも1万円しない価格で販売されているので、糖尿病ではない人でも購入できます。
この自動血糖測定器が患者さん以外でも使いやすいのは、従来の自己血糖測定器とは異なり、指先から血液を採取しなくていい点。ハードルが低くなりますよね。スマートフォンを使いこなせている人なら、すぐに操作に慣れるはず。
糖尿病をまだ発症していない人が自動血糖測定器を使うとして、どのように糖尿病対策に生かすか? この測定器は最長14日間の血糖値を記録できます。何日間か連続して測定し、夕食後たくさん食べた後の血糖値、その翌日の血糖値などをチェックしてください。
そろそろ忘年会シーズンなので、忘年会の翌日などは忘れずに測定を。膵臓が元気でインスリン分泌に何の問題もなければ、暴飲暴食しても翌日には正常値に戻っています。
しかし膵臓が疲れてくると、なかなか戻りにくくなる。翌日も数値が高いままなら、病院できちんと検査を受けることを強くお勧めします。
進化する糖尿病治療法