病気を近づけない体のメンテナンス

【胃】食後に不具合 ダンピング症候群には早期と後期がある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 胃がんなどで胃を切除した人は、食べ物が胃にためられることなく一気に小腸へ流れ込んでいく。そのため、さまざまな症状が起こりやすくなる。ダンプカーなどで積み荷を一気に投げ下ろすことを表す言葉を使って、「ダンピング症候群」と呼ばれている。帝京大学医学部付属病院外科(上部消化管)の福島亮治教授が言う。

「胃を切除した人の25~50%に、何らかのダンピング症候群の症状が起こるとされています。しかし、日常生活で問題となるのは10%程度です。ただし、胃の切除の仕方は全摘もあれば部分切除もあり、消化管のつなぎ方、胃の残り具合など人によって異なります。ですから、症状の出方や感じ方の程度も人によってさまざまです。ダンピング症候群には、食後30分以内に起こる『早期ダンピング症候群』と、食後2~3時間くらい経ってから起こる『後期ダンピング症候群』があります」

 早期ダンピング症候群の症状は、「腹痛」「腹部膨満感」「下痢」などのお腹の症状に加えて「動悸」「脱力感」「血圧低下」「冷や汗」などの全身症状が起こることが特徴。十分にこなれてない食物が急速に小腸に入ることで、腸が引き伸ばされたりして腹部症状が起こる。また、血管作動物質や消化管ホルモンが血液中に過剰に分泌されるため、これらの働きで血液が腸に集まって、一時的に全身を巡る血液量が不足してしまい全身症状が起こるとされる。

 後期ダンピング症候群の主な症状は低血糖のため起こる「脱力感」「倦怠感」「頭痛」「眠気」など。ひどくなると「冷や汗」が出たり、「目まい」がしたりして、中には「失神する」人もいる。

 食物が急速に腸に入ると、糖分が急速に吸収され血糖値も急上昇する。血糖が急上昇すると、膵臓は慌てて血糖を処理するインスリンを多量に分泌する。インスリンには糖をエネルギーに変えたり、余った糖をグリコーゲンに変換して肝臓や筋肉に蓄える働きがある。インスリンによって高血糖状態はすぐに正常に戻るが、今度は過剰に分泌されたインスリンが残ってしまい、逆に血糖が下がり過ぎて低血糖を起こしてしまう。そのピークが、食事をしてから2~3時間後というわけだ。

「ダンピング症候群が起きたら、頭を高くして(逆流を防ぐ)、横になって症状が治まるまで休みましょう。後期ダンピング症候群に対しては、甘いものを取ることで回復が早まります。外出時は、アメや甘いジュースを携帯するといいでしょう」

 胃切除後の食事は慣れるまで、どういうものをどれくらい食べたらダンピング症候群の症状が出るのか、メモなどを取って自分なりに研究することも大切になる。

■食事は5~6回に小分けにする

 ダンピング症候群を抑える食べ方としては、小腸に急に大量の食べ物を送らないように、「消化の良いものをよく噛んで、ゆっくり時間をかけて食べる」。食べ物が過剰な水分と一緒に、腸へ急速に入らないように、「食事中の水分摂取はできるだけ控え、水分は食事と異なった時間に摂取する」。

 そして、そもそも一度に食べられる量が少なくなるので、1日に5~6回に小分けにした食事が勧められている。その際には食後の高血糖を防ぐために、「1回の食事で炭水化物(ご飯、パン、麺類などの主食)を食べ過ぎない」ように注意する。

「1日の食事の基本となる3食は、高タンパク・低炭水化物を心掛けるようにします。脂肪は可能ならばやや多めにすると、血糖を上げずに十分なカロリーを摂取することができます。ただ、取り過ぎると脂肪性下痢を起こしたりするので、注意が必要です。また胃からの排泄をゆっくりするために食物繊維が有効です。後期ダンピング症状対策としては、食後2時間をめどに軽く糖分や炭水化物を補給するといいでしょう。高血糖を防ぐのに、食後すぐ運動をすればいいかといえば、そうではありません。食後すぐ運動をすると、早期ダンピング症状が出やすくなるだけでなく、低血糖を誘発するので、注意してください。症状がひどい人は、逆に食後しばらく横になっていると、ダンピングの症状が出にくくなります」

 食後すぐの運動は控えるべきだが、食事で十分なカロリーを取り、できるだけ体重を減らさず、運動習慣で筋肉量を維持することは非常に大切になる。

 ダンピング症候群は、食事の取り方に慣れてくれば、多くの人は半年から1年くらいで起こらなくなる。しかし、その後も気を緩めず、自分に合った食生活を工夫しながら継続することが必要という。

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