役に立つオモシロ医学論文

ヘディングの影響は…サッカー選手は認知症になりやすい?

スコティッシュ・プレミアシップ、セルティック対マザーウェル戦
スコティッシュ・プレミアシップ、セルティック対マザーウェル戦(C)ロイター/Action Images

 ボクシングやアメリカンフットボールなど、頭部外傷のリスクが高いスポーツ選手では、数カ月から数年を経て脳の異常をきたすケースが知られています。世界的に人気の高いサッカーは安全性の高いスポーツという印象もありますが、選手の健康状態について、詳しい研究報告は限定的でした。そんな中、世界的にも有名な米国の医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に、元サッカー選手の健康状態について調査した研究論文が2019年11月7日付で掲載されました。

 この研究では英国(スコットランド)の元サッカー選手7676人と、年齢、性別、社会経済的状況が同等な一般人口2万3028人を18年にわたり追跡調査して、死亡リスクを比較検討しています。

 解析の結果、元サッカー選手は一般人口と比べて、心臓病による死亡リスクが20%、肺がんによる死亡リスクが47%、統計学的にも有意に低いという結果でした。他方でアルツハイマー型認知症による死亡は、元サッカー選手で約5倍、統計学的にも有意に高いことが示されました。

 また、元サッカー選手における認知症治療薬の処方状況について解析したところ、元フィールドプレーヤーよりも元ゴールキーパーで治療薬の処方が少ないという結果でした。

 心臓病や肺がんの死亡リスクが低いという結果は、元サッカー選手がもともと健康的であり、喫煙者も少ない集団だったからだと思われます。しかし、そのような健常集団でありながらも認知症による死亡リスクが高いという結果は競技中の慢性的な外傷が健康状態に影響を及ぼしている可能性を示唆します。とりわけフィールドプレーヤーはヘディングの影響も軽視できないかもしれません。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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