ドクター牧田 最強の食事術

脂質が“悪者”は大きな勘違い 肉を食べてもなぜ太らないのか

それほど多くの脂質を取っていない
それほど多くの脂質を取っていない

 自身のせり出したお腹を見て、「こんなに脂肪がたまっているのは脂っぽい物を食べ過ぎているからだ」と思い込んでいる人も多いと思います。しかし、その考えは改めなければなりません。人が太る主な理由はご飯や麺類といった炭水化物(≒糖質)の取り過ぎであって、脂質の多い肉ではありません。

 ではなぜ、私たちは脂質の多い肉を食べると「太る」と思い込んでいるのでしょうか?

 私は64年前に第34代米国大統領アイゼンハワー氏が心筋梗塞で倒れたときに、その原因を当時の学者たちが「糖質」でなく「脂質」と間違ったメッセージを出したことが大きかったと思っています。アイゼンハワー氏は第2次世界大戦従軍中に当時の陸軍参謀長に300万本のコーラを送るよう要請したという逸話があるほどのコーラ愛飲者です。長年の過剰な糖質摂取が血管の老化を進め心筋梗塞を招いたと思うのですが、当時は「大統領は脂質を取り過ぎたことが原因」という間違った情報が流され、それを米国民が信じ込み、その結果として米国は肥満大国、心筋梗塞大国になったと考えています。

 脂質を多く含む肉類を食べると皮下脂肪や内臓脂肪になるというのは、いかにもわかりやすい理屈です。しかし、ある程度の生化学の知識がある人ならば、食べた物がそのまま脂肪として取り込まれるわけではないことはご存じだと思います。肉を食べれば、体内でいったんアミノ酸などに分解され、新たなタンパク質などに合成されます。実際にお腹などにつく脂肪は、糖質を摂取して血中に増え過ぎたブドウ糖をインスリンの働きで肝臓や筋肉に蓄え、それでも余ったブドウ糖を中性脂肪に変えて蓄えているのです。

 では、なぜ、脂質を取っても太らないのでしょうか? それには3つの理由があります。1つは脂質には全身で37兆個ある細胞を維持するために欠かせず、それだけ多くの脂質が使われるからです。例えば、絶えずつくり替えられる細胞膜は脂質からできるリン脂質が必要です。ほかにもホルモンに似た情報伝達物質などをつくるのにも脂質は必要です。脂肪の一種であるコレステロールは食べ物で賄えないために、肝臓で合成するほど数が足りないのです。

 2つ目の理由は、人はそれほど多くの脂質を取っていないことです。日本人の1日平均の脂質摂取量は男性が74グラム、女性が56グラムに過ぎません。余って体内に蓄えられるほどの余裕はないでしょう。

 3つ目は脂質は水に溶けにくいため吸収しづらく、肉やバターのような飽和脂肪酸は有収率が悪く、たくさん食べても体内に蓄積するのは難しいことがわかっています。

牧田善二

牧田善二

AGE牧田クリニック院長、医学博士、糖尿病専門医。1979年、北海道大学医学部卒業。ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで糖尿病の合併症の原因とされるAGEを研究。96年から北海道大学医学部講師、2000年から久留米大学医学部教授。03年から糖尿病をはじめとした生活習慣病および肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開院、延べ20万人以上の患者を診ている。著書に「医者が教える食事術 最強の教科書」(ダイヤモンド社)ほか、多数。

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