患者が急増中!その視力低下は近視でなく「円錐角膜」です

年齢とともに近視や乱視が強くなる
年齢とともに近視や乱視が強くなる

「塾通いのせいかしら、近視が進んじゃったみたい」――。

 わが子の視力低下を嘆く親は多いが、それは本当に近視が原因なのか? 実は近視と同じように視力が急に低下し強い乱視が表れる、古くて新しい目の病気「円錐角膜」が眼科医の間で注目されている。

 眼球の角膜がとがってきて年齢と共に近視や乱視が強くなるこの病気は、近視が進む10~20代に起きやすいため、近視と間違われることが多いという。「それって円錐角膜かもしれません」(ライフサイエンス出版)の著者で眼科専門医の加藤直子医師に聞いた。

「円錐角膜は眼科医の間では古くから知られた病気ですが、一般の人にはあまり知られていません。かつて500~2000人に1人程度の珍しい病気であると推測されていたこと、見つかっても治す方法がなかったことなどが理由です。しかし、検査機器の進歩でこれまで見過ごされていた円錐角膜が見つかるようになり、有効な早期治療法が開発されたことで状況が変わりました。最近の疫学調査ではより多くの人が患っている可能性があることがわかってきたのです」

 2017年の専門学会発表では、疑い例を含めると100人に1人くらいの割合ではないかと報告された。

 気になるのは患者の多くが思春期に発症し、アッという間に症状が悪化することだ。

「人にもよりますが、10~20代に発症して、30~40歳を過ぎると進行の速度がゆっくりとなり、中年以降になるとほとんど進行しないというパターンが一般的です。ただし、10代の前半で発症した人は急激に重症化しやすく、20代後半で発症した人は進行の速度はゆっくりで比較的軽い状態でとどまることが多い印象があります。光を感じられないことが失明の定義ですので、失明することはありませんが、重症化すると、眼鏡をかけても0・1も見えない人もいます」

 なぜ円錐角膜になるのか、その原因はハッキリしていない。ただ、アトピー性皮膚炎、ダウン症、睡眠時無呼吸症候群の人に多いことがわかっていて、最新の研究では、遺伝子との関わりが注目されている。

 目の細胞のアポトーシス(細胞死)をつかさどる遺伝子や酸化ストレスを除去する遺伝子、角膜のコラーゲン線維の新陳代謝をつかさどる遺伝子などに異常が見られるとの報告がある。さらには角膜の細胞が炎症や低酸素ストレスに対して抵抗性が弱く、普通の人の細胞なら反応しないような低い刺激でタンパク質溶解酵素を産出してしまう可能性も指摘されている。

「円錐角膜が怖いのは、進行すると治ることがないことです。ハードコンタクトレンズは、角膜に硬くツルツルしたレンズを乗せることで角膜の凹凸などを抑えて、視力や乱視をしばらくの間、矯正することは可能です。しかし、進行し過ぎてハードコンタクトができなくなれば角膜移植しか手がありません。ですから、悪くなり過ぎる前に、早期発見して新たな治療法を受けることが大切なのです」

円錐角膜手術
円錐角膜手術(加藤直子先生提供)
早めの治療がわが子の将来を開く

 反抗期のど真ん中にある子供たちは、円錐角膜といってもコトの重大性を認識するのは難しい。親が先を見越して積極的に関わらないと、子供の将来を狭めることにもなりかねない。

 左右ともに円錐角膜が見つかった男子高校生は、親の強い勧めですぐに手術をしたおかげで進行がストップ。大学へ進学、卒業後は念願の海外駐在員になったという。

「10代はとくにですが、短期間に視力が急激に落ちた、乱視が進んだ、眼鏡をかけても視力が出にくい、景色や街灯がにじんで見える、といった人は円錐角膜を疑い、角膜形状解析検査を受けることをお勧めします。眼科専門医が在籍する医療機関で対応してくれるはずです」

 ハードコンタクトレンズの装着が必要ない状態で発見されれば、「角膜クロスリンキング」を選択するのも手だ。

「円錐角膜の人の目のコラーゲン線維は、普通の人に比べて軟らかいために変形してしまいます。そこで、薬剤で固めてしまうというのが角膜クロスリンキングです。具体的には点眼麻酔をした後、手術で黒目の表面の角膜上皮を取り除き、リボフラビン(ビタミンB2)を溶かした点眼薬を垂らした後に紫外線を照射して目のコラーゲン線維を固めます。照射後は度のないソフトコンタクトレンズを保護のために装着して終了です」

 この治療法は03年に開発されたばかりであるため、長期的な影響はハッキリしない。しかし、10年の追跡調査では、進行が止まる効果が確認され、大きな合併症は報告されていないという。

「海外ではすでに30万件以上行われたといわれ、欧州ではその普及により円錐角膜で角膜移植を受ける患者さんが10年間で半減したとするデータが示されています。米国食品医薬品局(FDA)も16年に安全な治療として承認しています」

 視力低下が気になる人は知っておいて損はない治療法だ。

関連記事