ようこそ!不老不死レストランへ

本物の香りと辛味で塩分を補い食欲を増進

蒸し鶏と春菊のからし味噌和え(左)とナスのからし和え
蒸し鶏と春菊のからし味噌和え(左)とナスのからし和え(C)日刊ゲンダイ
和の香辛料(1)からし

 香辛料の役割は料理に香りや辛味を加え、食欲を刺激するだけではありません。

 食材そのもののうま味を十分に引き出す、もしくは別のうま味を加えることによって塩分を控えるのがこの「不老不死レストラン」の大きなテーマですが、塩気を補うのはうま味成分に限らないからです。香りや辛味などの風味も、塩分を補ってくれます。つまり香辛料を上手に使うことで、塩気を抑えられるのです。

 体にとって重要な役割を担ってくれる香辛料の中でも、今月は和のものを使った料理をご紹介します。

 そのうちのひとつ、からしは奈良時代から使われてきた古い香辛料でありながら、からしの種子から丁寧に作られているものはほとんどありません。 ここで使う麩市の「地がらし」(写真下)は地元福井県産のからしの種子を丸ごと石臼で粗びきするという昔ながらの製法で作られています。何より風味が良いですし、料理が優しい辛さに仕上がります。

 いったん封を切ったら密閉容器に入れ、冷凍庫で保存します。そうすることで、香りも飛びにくくなります。

 からしには疲労回復に役立つビタミンB1、新陳代謝を促進するビタミンB2、血圧の上昇を防ぐカリウムなどが豊富に含まれています。どんな料理にも合いますけれど、今回は蒸した鶏肉、ナスと合わせました。蒸し鶏は香りの強い春菊と和えることで、清涼感が加わり、控えた塩分を補ってくれます。

■蒸し鶏と春菊のからし味噌和え

《材料》
◎鶏胸肉  1枚
◎塩  少々
◎しょうが薄切り  3~4枚
◎ネギの青い部分  1本分
◎酒  大さじ2
◎春菊  1束
◎粉からし  小さじ1
◎水  大さじ1
◎白味噌  大さじ2~3
◎煮切り酒  大さじ2
◎薄口醤油  大さじ1

《作り方》
 鶏胸肉に塩、しょうが、ネギ、酒を合わせ、湯気のあがった状態の蒸し器で15分蒸す。火を切り、室温になるまでおき、皮と脂を除いて割く。小さめのすり鉢に粉からしと水を合わせ、風味と辛味が出るまでする。白味噌、煮切り酒、薄口醤油を加えてさらにすったものと、割いた蒸し鶏を和えて器に盛る。春菊を塩茹でにして水にさらし、水気を絞ったら細かく切り、蒸し鶏の上にのせる。食べるときは蒸し鶏と春菊を交ぜて。

■ナスのからし和え

 ナス3本のへたを除き、半月の薄切りにして塩小さじ3分の1を合わせたら10分おき、水気を絞る。ボウルに粉からし小さじ1、米酢大さじ1と2分の1、醤油大さじ1を入れ、辛味が出るまでよく混ぜたら、ナスと合わせる。好みで白ごまをふる。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

麩市の「地からし」は種子を丸ごと石臼で粗挽きする昔ながらの製法
麩市の「地からし」は種子を丸ごと石臼で粗挽きする昔ながらの製法(C)日刊ゲンダイ
酵素反応による辛味に抗がん、抗菌作用

 香辛料と人間の食文化には長い歴史がある。料理にちょっとしたスパイスを利かせることは、味を引き立てるアクセントになり、食欲を高進させる材料でもある。また、肉や魚の臭みを消す働きもある。香辛料は種類によって、その化学構造も違えば、作用機構も異なる。

 今回のからしは、いわゆる和からし。アブラナ科の植物であるカラシナ(もしくはその近縁種)の種子をすりつぶした黄色い粉末。実はわさびもアブラナ科の植物なので、からしとわさびは親戚。どちらもイソチオシアネートという揮発性の物質が辛味の正体である(差はその他の香気成分による)。

 アブラナ科の植物の芽の部分を食べると清涼感があるのは、みなこの成分のせい。植物がこんな成分を保有しているのは、むやみに虫などに食べられてしまわないよう防御(忌避物質)するため、と考えられる。植物はこの辛味成分の原料を油の形で貯蔵していて、それ自体は辛くない。植物が傷つくと酵素反応によって油から辛味成分が切り離される。揮発するので空中に広がり、敵を撃退する。なので人間がからしを利用するときも粉をよく練って酵素反応を起こさないと辛くならない。からしの辛味が鼻にツンと抜けるのは揮発性のため。あまりに辛いときは鼻をつまんで空気が口から鼻に抜けるのを防いだほうがいい。イソチオシアネートは、抗がん作用、抗菌作用、動脈硬化予防作用などが動物実験で示されているので、健康増進食材ともいえる。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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