Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

肝臓がんは九州沖縄が中心 がん患者の分布と地域性の理由

がん発症原因の6割が生活習慣…
がん発症原因の6割が生活習慣…

 佐賀県の肝臓がんの患者数は1999年から19年連続でワーストでしたが、昨年の速報値で31・4となって、和歌山の32を下回り、20年ぶりに最下位を脱却したことが話題になりました。なぜ、20年も佐賀がワーストだったのかというと、がん患者の分布には地域性が関係しているのです。

 肝臓がんの7割は、C型肝炎ウイルスの感染で、その感染者が九州を中心に西日本に多く、福岡や長崎、大分なども高い割合になっています。

 しかし、佐賀県は肝炎ウイルスの検査費用を補助したり、医療機関などとの連携を強化したりして、ワーストを脱却。佐賀の取り組みは、感染型のがんは予防可能なことを示しています。

 白血病のひとつ、成人T細胞白血病も沖縄や九州に多い。原因となるHTLV―1ウイルスの感染者がこのエリアに集中していて、今年5月には鹿児島や沖縄、福岡、佐賀などでの感染者急増が報じられました。母乳や性交渉で感染するため、対策が急務でしょう。

■遺伝はせいぜい5%

 がんの年齢調整死亡率は、青森がワーストの88・9で、64・1でトップの滋賀より4割増です。青森の食塩摂取量は男性が8位、女性が4位。喫煙者は全国平均を上回っていて、運動習慣のある人の割合は全国平均を下回っています。滋賀の食塩摂取量は少ない方から数えて5位で、喫煙率が最も低いのが滋賀です。

 世間話で「ウチはがん家系だから」といいますが、がんの原因は6割ほどが生活習慣で、遺伝はせいぜい5%。生活習慣は家庭を超えて、その地域に広く根づいているから、がんの地域性に結びつくのです。

 胃がんはピロリ菌感染が原因の95%を占めていますが、塩分の多い食事は、ピロリ菌による胃炎を悪化させ、胃がんリスクを助長します。食塩の摂取量とも関係していて、トップ3は秋田、青森、鳥取の順。雪の多い地域で塩分摂取量が多いことが関係しているのが分かるでしょう。かつて、胃がんが多かった和歌山は梅干しが有名です。

 アルコールが発症原因のひとつである食道がんのトップの高知は、“酒豪県”として知られています。高知とともにワーストの常連である秋田や鳥取も、“酒豪県”といっていいでしょう。

 変わったところでは、乳がんの発症は東京が断トツです。妊娠と授乳中はホルモン分泌が変わって、生理が止まり、乳がんのリスクが低下しますが、東京の出生率は全国最下位。都市ですから、食習慣の欧米化も地方より進んでいます。その影響を強く受けている可能性は十分です。

 がんを気にするなら、遺伝を心配するより、生活習慣の改善をお勧めします。それが、がん予防の第一歩です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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