進化する糖尿病治療法

糖尿病の発症1年未満は膵臓がんの発症リスクが5倍高い

定期的な検査で血糖をチェック(写真はイメージ)
定期的な検査で血糖をチェック(写真はイメージ)

 糖尿病がきっかけで、がんが早期発見されるケースがあります。

 50代前半の男性は、昨年、糖尿病が分かりました。診断された当初は「これからずっと糖尿病と付き合っていかなければならないのか。食べたいものを食べられないのか」と落ち込んでいましたが、「早い段階で徹底した生活習慣改善をし、体重を減らせば、糖尿病は治る」と伝えると、がぜんやる気を出し、生活習慣改善に一生懸命取り組んでいました。

 その甲斐あって、身長170センチで70キロ半ばだった体重が、1年で10キロの減量に成功。「深夜のラーメンをやめる」「ご飯の大盛りをやめる」「食事では、まず野菜を先に食べる」「チャーハン+ラーメンや牛丼といった糖質中心のメニュー構成ではなく、タンパク質や食物繊維など、栄養素をバランスよく取れる定食にする」といった本人にとって無理のないダイエットにしたため、リバウンドの心配もない。しかも、ウオーキングや水泳など軽い運動をしながらのダイエットだったので、筋肉がつき、基礎代謝が上がって“太りにくい体”になりました。

 数値も劇的に変化。ヘモグロビンA1cは6台の標準値をずっと維持しており、「このままいけば、糖尿病の薬もやめられるかもしれない」と本人と話していたのです。

 ところが、ある時から急に、ヘモグロビンA1cのコントロールが悪くなりました。急に8台に上がり、下がらなくなったのです。改善した生活習慣をそのまま保っているのに、です。

 私は、血糖の適正値を維持していたのに急にコントロールが悪くなった患者さんや、一生懸命生活習慣改善に取り組んでいるのに血糖が高いままで下がらない患者さんの場合、必ずと言っていいほどがんを疑い、全身を検査します。この男性にもそのようにしたところ、早期の膵臓がんが見つかりました。

■血糖コントロールが悪い人はがんを疑う

 よく知られるように、膵臓がんは健康診断や人間ドックを毎年受けていても早期発見が難しいがんです。悪性度が高く、早い段階で転移が起こりやすく、再発リスクが高い。

 さらに、抗がん剤治療や放射線治療が効きにくく、予後が悪い。とにかく一刻でも早く見つけて治療を行うことが肝心ですが、1~2センチの早期で見つかっている患者さんは、ほとんどが“別の検査を受けた時に見つかった”というケースなのです。まさに、血糖コントロールが悪くなったことから膵臓がんが見つかった男性のように。

 この男性が膵臓がんを早期発見できたのは、“たまたまラッキーだった”わけではありません。しっかりと生活習慣改善に取り組み、定期的な検査で血糖コントロールを確認していたからこそ、です。

 健康診断で血糖値が高いと指摘されているのに再検査を受けずに放っていたら、そもそも糖尿病の診断・治療を受けていないわけですから、膵臓がんの早期発見につながらなかったでしょう。

 また、糖尿病診断後、生活習慣改善に取り組んでいなければ、「血糖コントロールが悪いのは、がんだからではないか」という疑いも生じなかったでしょう。知らないうちに膵臓がんが進行し、気付いた時には打つ手が極めて限られた状態だった、ということも十分に考えられます。

 なお、糖尿病がある人は膵臓がんの発症リスクが2倍高くなるといわれています。特に要注意は糖尿病発症1年未満で、膵臓がんの発症リスクが5・38倍高いといわれています。血糖コントロールが悪くなった場合は、速やかにがんの検査を受けるべきです。

 もし、主治医に「薬を増やして様子を見ましょう」と言われたら、「がんが心配なので、検査を受けたい」と伝えることをお勧めします。

 日本で行われた糖尿病とがんの関連に関する国内最大規模の調査によると、膵臓がんのほかに、男性では胃がん、大腸がん、肝臓がん、腎臓がん、女性では胃がん、肝臓がんが糖尿病と関連しています。2010年に米国糖尿病学会と米国がん学会が発表したコンセンサスリポートでは、糖尿病治療に欠かせない生活習慣改善は、がんのリスクも減少すること。そして、糖尿病患者が適切にがんのスクリーニングを受診するよう医療者は推奨すべきであること、としています。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

関連記事