がんと向き合い生きていく

乳がんの再発予防で10年間もホルモン剤を飲み続けるの?

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 洋服店で働いているSさん(39歳・女性)からこんな相談がありました。

 ◇  ◇  ◇ 

 乳がんの手術をして4年が経ちました。再発はなく元気です。病院に行った時はがんの塊は結構大きかったのですが、幸い手術ではすべて取れました。その後、医師から「リンパ節転移もあって、再発するリスクがあります」と言われ、抗がん剤の点滴注射とホルモン剤の治療をしました。いまはホルモン剤だけ飲んでいます。

 乳がんは骨に転移しやすいがんと聞いて、時々、腰が痛くなると骨に転移したかと心配になりますが、今のところ大丈夫です。定期検査はしっかり受けていますし、結果が大丈夫と聞くと、心が晴れてすっきりします。でも、次の検査が近くなるとまた心配になります。がんになった人でないと分からないと思いますが、何かにつけすぐに不安になります。薬を飲み忘れた時も、再発するのではないかととても心配でした。

 手術してくれたB先生は、忙しいのに外来でも毎回とても親切で丁寧に説明してくれました。ホルモン剤を飲み始めた時は「5年間飲みましょう」と言われました。でも、B先生は去年からよその病院に転勤になってしまい、担当が新しく赴任したF先生に代わりました。てきぱきしていて、問題はない先生だと思います。ただ、なんとなく質問しづらいような、B先生とは雰囲気が違う感じなのです。そして今回、F先生から「あなたの場合、ホルモン剤は10年間飲んだ方が再発の危険が減ると思います。どうしましょうか?」と言われました。

 とてもショックでした。

 私の父は進行した胃がんでしたが、手術して5年経って再発もなく、医師から「卒業です。完治です」と言われました。あるがんの講話でも「がんは5年再発しなければ完治と考えてよい」と聞きました。私は5年間でホルモン剤は終わりと思っていて、「あと1年で5年になる。もう少しでバンザイ。完治だ」と考えていたのです。

 他のがんでは5年再発がなければ完治なのに、私は再発もしていないのに10年間も薬を飲み続けるのでしょうか? 10年ですよ、10年! ひどくないですか? あと6年間この薬を見つめながら口に入れていかなくてはいけないのでしょうか?

 私は35歳で発病したので、10年間というと45歳になってしまいます。B先生から「催奇性のある薬だから、薬を飲み終わるまでは妊娠しないように」と言われていました。夫ともそのつもりでいました。私は子供を持てないのでしょうか? 10年間の話は、まだ夫には言えないでいます。

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 実は、乳がんは5年以上、いや10年以上経ってから再発することがあるのです。たくさんの乳がん患者が参加しての臨床試験では、数年前に「5年間内服よりも10年間内服した方が再発は少ない」という結果が出ました。そこで、手術の時に再発リスクが高いと考えられる患者の場合は、5年間内服よりも10年間内服に延長したほうがより有用と考えられるようになったのです。長年経ってからの再発のリスクは近い将来、遺伝子検査などでもっと詳細に分かってくると思います。

 再発のリスクが減るのは良いことですが、さらに長い治療期間になると副作用の問題もありますし、妊娠などいろいろな問題もあります。ぜひ、患者さんは医師から十分に説明してもらい、どうするのかをできるだけ納得して決められるべきだと思います。

 担当医には遠慮なく質問してください。F医師の定期診察の時、時間がかかって他の患者さんに迷惑になるようであれば、できれば別に都合のよい時間を取ってもらって説明していただいたらどうでしょうか?

 他の病院の意見を聞くセカンドオピニオンもあります。十分に、できるだけ納得したうえで治療法を決めることが大切です。どうか勇気を出して、負けないで頑張ってください。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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