6カ月以上続く膝痛には「運動療法」が効果あり 医師が解説

歩くと痛みが消える
歩くと痛みが消える

 6カ月以上続く腰痛や膝痛、頭痛など慢性的な痛み(慢性疼痛)を抱えている人は人口の15%いるといわれ、30~50代が中心だ。プライベートにも仕事にも影響を与える慢性疼痛はどんな治療法があるのか? 慢性疼痛の治療に力を入れる医師に聞いた。

 仙台ペインクリニックの伊達久院長によれば、慢性疼痛治療の現状は、「長期的な薬物療法」「電気をかけるなどの物理療法」「民間療法」。しかし、製薬会社「ファイザー」の調査では、「医師の診療に満足していない」「どちらかというと満足していない」を合わせると半数近くに上った。一方、2018年に多職種の専門家が集まって治療法などをまとめたガイドラインが登場。その中で注目すべきは、運動療法だ。

「運動療法はダントツに効果があります。77のランダム化比較試験を調べると、変形性股・膝関節症に対して、痛み、身体機能、パフォーマンス、QOL(生活の質)の改善が見られたのです」(伊達院長)

 線維筋痛症では、筋トレ群とストレッチ群に分けて1回45分を週2回、4カ月続けたところ、筋トレ群では1カ月目、ストレッチ群は2カ月目から疼痛の強度が減少。運動後、不安や抑うつ、QOLも改善した。

■その辺を歩く程度の軽い運動でOK

 また、慢性疼痛患者で運動療法が効いた群と効かなかった群を比較すると、効いた群は1カ月で痛みの程度が低下。

「特別な運動でなくても、その辺を歩く程度の軽い運動で慢性疼痛が治まるという結果でした」(伊達院長)

 患者からは「こんなに痛いのにリハビリなんて……」といった声がよく上がるという。「動くと痛くなる」という不安から体が動かせない“運動恐怖”を抱えているからだ。運動療法で「動いても痛くないことを自覚」→「リハビリで一時的に楽になることを体験」→「痛い時にストレッチをしよう、と考えるようになる」という良い循環が生まれる。慢性疼痛が長引くのには、不安や抑うつ、破局化思考が関係している。

「不安は、このまま動けなくなってしまったらどうしよう。抑うつは、痛みで何もする気がしない。破局化思考は、痛みさえなければ何でもできるのに、というもの。運動療法で、不安の解消と破局化思考の改善ができ、動くことでドーパミンが遊離されるので抑うつの改善も期待できます」(伊達院長)

 慢性疼痛で突発的に出る痛みは平均30分だと、伊達院長は指摘。30分すると痛みは自然に軽減するが、突発的な痛みの時に頓服を服用すると、薬の効果か自然経過かは不明で、患者は頓服のおかげだと思い、薬に依存してしまう。一方、痛い時に体を軽く動かして30分後に痛みが軽減すれば、患者は運動が痛みを軽減したと認識し、薬の依存からの脱却にもつながる。

 今、慢性疼痛の治療で注目されているもののひとつが、パルス高周波療法による神経ブロックだ。

「神経ブロックには何種類かあり、麻酔薬だけのものは長時間持続しません。神経破壊作用を用いた神経ブロックは効果が長時間持続しますが、運動神経を含む場合は脱力の危険があり、上肢・下肢には施行しにくい。一方、パルス高周波療法による神経ブロックは、神経破壊を伴わず、長時間効果が持続する可能性があります。膝の関節内注射でよくならない慢性疼痛では1回の治療で痛みもADL(日常生活動作)も改善。数カ月その効果が持つこともあります」(伊達院長)

 さらに、脊髄に微弱な電気を流して慢性疼痛を緩和させる「脊髄刺激療法」も登場している。

 今後、運動療法、パルス高周波療法、脊髄刺激療法などの組み合わせで、慢性疼痛のつらさから解放される人が増えていくことが期待される。

関連記事