専門医が教える パンツの中の秘密

性器周辺の水ぶくれ 必ずしも「性器ヘルペス」とは限らず

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 突然ですが、性器や肛門周辺に“水ぶくれ”ができる病気といえば何でしょう。そうです。5類感染症として医療機関からの定点報告が義務づけられている性感染症の中でも、女性では2番目に罹患(りかん)者が多い「性器ヘルペス」です。

 原因の「単純ヘルペスウイルス(HSV)」は2種類あり、「1型」は唇や目、手指など主に上半身に感染し、「2型」は性器や肛門周囲など主に下半身に感染して水ぶくれをつくります。しかし、ウイルスのすみ分けは厳密ではなく、性器ヘルペスから1型が検出されることも多数あります。

 では、体に水ぶくれができる感染症はHSVだけでしょうか。そうではありません。代表的なのは、子供なら「水ぼうそう」、大人なら「帯状疱疹(ほうしん)」がよく知られています。原因は「水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス(VZV)」で、子供の頃に水ぼうそうにかかり、そのウイルスが体内の神経節にすみ着いて、大人になって免疫力の低下をキッカケに帯状疱疹を発症するのです。

 HSVとVZVは、どちらもヘルペスウイルスですが、種類が異なるので、似ているところもあれば違うところもあります。一度感染すると体内の神経節にすみ着いて、感染者は一生、付き合っていかなければいけないのは同じです。水ぶくれの症状が出るのも同様です。

 HSV2型は、性器や肛門周囲に症状が出るという特徴があります。一方、VZVは特に胸や背中、顔面、頭部に症状が出ることが多いのですが、知覚神経のある場所ならどこでも発症する可能性があります。つまり、性器や肛門周囲に帯状疱疹による水ぶくれが発症することもあるのです。性器や肛門周囲を支配する神経領域は「仙骨神経」で発症頻度は帯状疱疹全体の8.2%という報告があります。

 このように性器に水ぶくれができたといっても、必ずしも性感染症とは限らないのです。それに性器ヘルペスは感染しても発症せず、無症状でウイルスを排出している不顕性感染が70~80%と多く、本人も気づかないまま他人にうつしてしまいます。感染から数年も経って発症すれば、いつ感染したのかも分からない。そして再発を繰り返すことが多い。

 比べて帯状疱疹は他人にうつすことはなく、基本的に再発することはほとんどありません。また、症状は体の片側だけに出て、発症時に皮膚がピリピリする神経痛が先行する特徴があります。

 医師でも鑑別に迷う場合があります。治療で使う抗ウイルス薬は、早期に投与を開始した方が帯状疱疹では治療効果が期待できます。薬の種類によって相違があり、投与量は性器ヘルペスの2~3倍になります。

 性器ヘルペスと誤診されて薬を処方されると治療期間が延長するので、できれば専門医を受診した方がいいでしょう。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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