Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

効果は0.1%…厚労省のデータで判明したゲノム医療の現実

検診で早期発見するのが大事
検診で早期発見するのが大事(C)日刊ゲンダイ

 がんの遺伝子検査を巡る調査結果が波紋を広げています。厚労省が遺伝子検査を手掛ける中核拠点病院などを対象に検査実績を調査したところ、検査を受けた805人のうち、効果的な薬が見つかったのは全体の1割ほどの88人にとどまったのです。

 遺伝子検査を受けられる病院は、全国156施設で、検査が保険適用になった今年6月から10月までに保険で検査を受けた人が対象。134施設から回答があったといいます。実は専門家の間では、検査が“狭き門”であることは予想されていました。

 体を構成する37兆個に上る細胞には、遺伝子をのせた核があります。そのすべての遺伝子と遺伝情報がゲノムで、ゲノムの突然変異によって生まれた不死化した細胞が、がんなのです。

 これまでのがん治療は、臓器ごとに別々に組み立てられてきました。ゲノムの解析によって、発がんのカギとなる特定の遺伝子変異は、臓器の枠を超え、さまざまながんの発症原因となることが分かっています。

 そのゲノム異常を調べるのが遺伝子検査。そこで得られた遺伝子変異に効果的な治療薬を使うのが目的です。そんなゲノム医療は、オーダーメード医療として期待値が高いのは事実でしょう。

 手術が受けられず、抗がん剤も放射線も効かないがんでも、この検査によって効果的な薬が見つかり、完治に近い状態に改善したケースは確かにあります。でも、問題点も多いのです。

■重要なのはメタボ対策と検診受診

 そのひとつが、保険適用の対象の狭さ。

 手術、放射線、抗がん剤の標準治療が存在しない希少がんや原発不明がん、そして標準治療を終えて選択肢がなくなった方。2019年にがんと診断されるのは約102万人と予測されますが、対象者は約1万人ですから、せいぜい1%なのです。

 検査を受けて遺伝子変異が見つかるのは、大体2人に1人ですが、遺伝子変異があっても、その変異に関係する薬剤が未開発のケースは珍しくなく、厚労省の調査の通り薬を使用できるのは、検査を受けた人のうち10%程度です。

 そうすると、その年のがん患者全体では、0・1%にすぎません。1000人に1人です。

 検査にかかる時間もネックでしょう。

 検査には摘出されたがん組織が必要で、十分な量がなければ新たに採取することが必要です。結果が出るまでにかかる時間は、4~6週間。組織の準備や外部委託する検査機関によっては、さらに日数を要する可能性もあります。保険適用の多くの方は、進行がんで時間との闘いだけに、大問題です。

 その現実に着目すると、ゲノム医療はまだまだバラ色の治療法ではありません。進行がんになって慌てるより、がんの予防と早期発見を心掛ける方が無難です。

 がんの予防もメタボ対策に通じる部分が大きく、適度な運動と食事の改善が欠かせません。それにプラスして、検診をきちんと受けること。これに尽きます。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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