人生100年時代の歩き方

飲み続けると事故リスクが上がる「抗不安薬」と「睡眠薬」

全処方の53%が65歳以上
全処方の53%が65歳以上(C)日刊ゲンダイ

 薬の副作用で認知症のような症状が表れる可能性があることを12月6日に日刊ゲンダイDIGITALで、報じたところ、大きな反響を呼んだ。そんな薬の中でも、睡眠薬と抗不安薬の影響が強い。今回は、その睡眠薬と抗不安薬について、詳報する――。

 病院で処方される睡眠薬と抗不安薬には、いくつかのグループがある。問題となっているのは、ベンゾジアゼピン系と呼ばれるグループに属する薬だ。表の通り33種類に上る。

 朝日新聞などの調査によると、2017年度に処方されたベンゾ系の睡眠薬と抗不安薬のうち、53%が65歳以上に、33%が75歳以上に処方されていて、男女別では女性が多かった。高齢者では1年に平均100錠近いベンゾ系の薬を服用していたことになるという。

 厚労省の「高齢者医薬品適正使用検討会」も、高齢者の“薬漬け”の実態を調査。「65~74歳」は約20%、「75~84歳」は約25%、「85歳以上」は約35%が、5種類以上の薬を処方されているのだ。

 その状況を受け、副作用が10件以上報告された薬をリストアップ。そのトップ3が「催眠鎮静剤、抗不安薬」「その他中枢神経用薬」「精神神経用薬」で、精神神経系の薬が上位を独占しているのだ。

 ベンゾ系の薬は、中枢神経の興奮を抑え、不安感を和らげたり、不眠を抑えたりするが、その作用が強過ぎると眠くなったり、認知機能がダウンしたりするなど副作用が表れる。特に高齢者は、薬を分解して代謝する力が低下することから、その危険性が高いという。

高齢ドライバーはとくに要注意
高齢ドライバーはとくに要注意(C)共同通信社
複数の診療科で重複する悪循環

 ストレスケア日比谷クリニック院長の酒井和夫氏が言う。

「ベンゾジアゼピン系の睡眠薬と抗不安薬は、複数の診療科で重複して処方されやすいことが問題です。たとえば、ある高齢者が腰や膝が痛くて眠れないと整形外科を受診したら痛み止めとともに処方され、内科で血圧が高くて不安感を訴えれば、同じく降圧剤と一緒に抗不安薬などを処方される可能性が高い。精神科医や心療内科医が必ずしもベンゾ系の薬をきちんと管理しながら処方しているとは限らないのです」

 海外の研究では、ベンゾ系薬剤の服用による骨折リスクや交通事故のリスクも報告されている。フィンランドでは、認知症ではない高齢者約9万3000人を追跡。ベンゾ系の薬を服用しているグループは、していないグループに比べて大腿骨頚部骨折を起こすリスクが1.6倍高いことが判明した。

 ベンゾ系の薬には、副作用のひとつとしてふらつきが知られている。それで転倒して、太ももの付け根を骨折すると、高齢者は寝たきりに直結。引きこもりの生活が、ひいては認知症を招く恐れは十分だろう。そうなるとさらにベンゾ系の抗不安薬を重ねる悪循環だ。

 米国の研究では、ベンゾ系の薬を飲んでいる人は、飲んでいない人に比べて交通事故のリスクが2・2倍だったという。東池袋暴走事故の加害者がそのようであったかは分からないが、ベンゾ系の薬の副作用である傾眠や認知機能の低下が、運転時の判断力低下につながり、事故リスクを高めるのだろう。

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