「あ、女の子がいる! え~なんで? なんで?女の子だぁ、女の子!」
手術後、病室で麻酔から目覚めた時、女性の看護師さんを見て開口一番そう言ったみたいです。
ボクは全然覚えてないんですけど、広島から来てくれていた母親が申し訳なさそうにマネジャーに「すみません……」と頭を下げ、マネジャーも「いえいえ、なんかすみません」と返したという話を後から聞きました(笑い)。
「脳動脈瘤」が見つかったのは、昨年秋に放送された「名医のTHE太鼓判!」というテレビ番組に出演した時のことでした。すぐにでも手術をしたかったのですが、仕事の調整と病院のタイミングが合ったのが今年の1月の初旬だったんです。
脳動脈瘤は文字通り、脳の動脈にできた「瘤」で、破裂するとくも膜下出血などを起こし命取りになる病気です。瘤は眉間の奥にあって、「体の真ん中なのであまり良くない位置」と言われました。開頭するのが一番いいのだけれど、丸刈りに傷や陥没の痕が残る可能性もあるので、カテーテル手術を選びました。
足の付け根にある血管から脳までカテーテルを通して、動脈瘤の中にコイルを詰めて破裂を防ぐ手術です。詰め物が出てこないように瘤の口を鉄板でふさぐ可能性もあったのですが、鉄板を入れたら一生、血液がサラサラになる薬を飲まなくちゃいけない。
そうなるとちょっとの傷でも出血が止まらないから仕事を選ばなくちゃいけなくなる……。だからドキドキしていたんですが、先生が上手にやってくれて鉄板は入れずに済みました。
入院は10日間でした。前半は手術に向けて血糖値などを整える日々で、手術からは5日で退院。術後、たった1日でしたが寝返りもできない寝たきりを体験して動けないつらさを実感しました。
でも、違う意味で大変だったのがツイッターでした。実は複雑な事情がありまして、病院の場所はおろか入院自体が極秘事項だったんです。なので、普段と変わらないツイートをし続ける必要がありまして、入院前の3日間に10日間分の写真の撮りだめをしたんです。いつもと同じようにツイートを更新しないとフォロワーが心配してしまうし、居所を捜し始める人も出てきてしまうので苦肉の策でした。
ボク、1日に20回ぐらい更新するので、本当に撮りだめも大変でした。カバンに何着も服や帽子を詰めて、その目的だけのためにあちこち行って撮っては着替え、着替えては撮るを繰り返しました。やりながら、「なにやってんだろ?」って思いましたよ(笑い)。入院してからは天候や時間帯を考えてつじつまが合うように約30分おきに写真を更新。しんどかったです。でもある意味、気がまぎれましたけどね。
退院した後で手術の報告をしたら、それまで以上に「うそつき」と言われましたけど、心配させないために頑張ったんです。優しいのも、しんどいもんです。
事務所もひどくて、退院してすぐ「1カ月後にプロレスの仕事がある」と聞かされてビックリしました。ゆっくり体力を戻していこうと思っていたのに「えー、なんで」って思いました。「主治医から、もう普通に仕事して大丈夫とお墨付きをもらったから」なんてマネジャーは言ってましたが、プロレスは“普通の仕事”じゃないから! でもそこから必死に鍛えて結果的に早く回復できたんで、プロレスの仕事を入れたのは早く元気になってほしいという会社の優しさだったんだって無理やり思い込みました(笑い)。
■今度こそは親孝行をしたい
病気から学んだことは健康診断は受けたほうがいいってこと。脳動脈瘤は遺伝も関係しているらしいので、身内に同じ病気の人がいたら一度は検査することをお勧めします。
それから今回はたまたま運が良かっただけで、一歩間違えれば死んでいたかもしれないと思うから、いろんなことに感謝するようになりました。プロレスをやらされたことを無理やりにでも“優しさ”と思えたのがその証拠です。
そして、なにより思ったのは親の大切さです。ボク、親孝行していないどころか、いまだに仕送りしてもらったりするんですよ。ほら、よく「子供に手がかかるうちは心配で死ねない」とか言うでしょう? 本気でそう思ってたから親を安心させたくなかったんです。
今回も東京に泊まり込んで、毎日病院に来てくれて申し訳ないとは思いましたけど、こんなに長く一緒にいられたのは久しぶりだったから、ボクはしっかり子供に戻れました。親にとってもよかったんじゃないかなと思って「よかったでしょ?」って聞いたら、「入院じゃなければね」と言われて、ちょっと反省しました。
子供が入院だなんて、こんな親不孝なことはない。だから今度こそは親孝行を! って思っています。「するする詐欺」とか言われてますけど、そのうち温泉旅行にでも連れていきます。その時は両親の分もちゃんと旅費は出しますよ(笑い)。
(聞き手=松永詠美子)
▽くろちゃん 1976年、広島県生まれ。2001年、団長安田、HIROとお笑いトリオ「安田大サーカス」を結成し、テレビを中心に活躍。スキンヘッドとハイトーンボイスが特徴で、体を張った芸で人気を博す。12月27日~20年1月13日(元日は休館)に「名古屋パルコ南館7F イベントスペース」で展覧会イベント「クロちゃんのモンスターパーク」を開催。27日(金)、28日(土)は本人来場イベントもある。
独白 愉快な“病人”たち