病気を近づけない体のメンテナンス

腎臓<上>自覚ない慢性腎臓病で心疾患・脳卒中のリスク上昇

夜間頻尿や高血圧による不眠などの症状に注意
夜間頻尿や高血圧による不眠などの症状に注意(C)PIXTA

 普段、健康に気を使っている人でも、「腎臓」の調子を気にする人はほとんどいないだろう。何らかの腎障害が慢性的に持続している「慢性腎臓病(CKD)」の状態でも、初期にはほとんど自覚症状がないからだ。気がついたら「透析」が必要なほど悪化しているケースもある。

 そんな透析予備群が成人の8人に1人の割合でいるとされる。2017年12月末時点で国内の透析患者は約33万4000人。年間約4万人が透析を新規導入し、年間約3万人以上が死亡している。特に死亡原因で多いのは「心不全」「脳血管障害」「心筋梗塞」を合わせた心血管死で、3割以上にのぼる。透析に至らなくても腎機能が低下するほど、脳卒中や心疾患を発症しやすいことが分かっているのだ。

 どんな人にCKDのリスクが高いのか。腎臓病と透析治療を専門とする「みたかの森クリニック」(東京都武蔵野市)の菊池太陽院長が言う。

「透析に至る疾患で多いのは、『糖尿病性腎症』『慢性糸球体腎炎(主にIgA腎症)』、高血圧が原因の『腎硬化症』『多発性嚢胞腎』。生活習慣病やメタボリックシンドロームの診断がされている人は、自分でも腎機能を調べて気にする習慣をつけて欲しいと思います」

 腎臓は握りこぶしくらいの大きさの臓器で、ウエストの少し上の背中側に位置し、左右1個ずつある。役割は体内の老廃物を排泄したり、体内の水分や電解質の調節などを行っている。腎臓が分泌するホルモンの中には、血圧を上げる働きをするものもある。そのため腎臓病になると高血圧になったり、逆に高血圧があると腎臓病が引き起こされたりするのだ。

 CKDは軽度~中等度は、ほぼ無症状。それ以上悪くなると、尿の濃縮機能が障害されるので、夜間にトイレで目が覚める「夜間頻尿」が見られたり、血圧が高くなることで何となく「だるい」「不眠」「頭痛」などの不定愁訴が表れる。しかし、これらの症状が出てしまうと、透析に至るリスクが一段階高まるという。

 透析を防ぐには、無症状のうちにCKDを早期発見するしかない。そこで重要になるのが、普段、定期的に受けている健康診断の結果だ。

「注目する検査項目は、尿検査の『尿タンパク』と、血液検査の『血清クレアチニン値』と性別、年齢から算出した『GFR(糸球体ろ過量)推算値』です。尿タンパクが基準値以上やGFR推算値が60未満なら、きちんと再検査を受けた方がいいでしょう。健診結果にGFR推算値が記載されていない場合は、ネットで検索すれば血清クレアチニン値と性別、年齢を入力すると自動でGFR推算値を算出してくれるサイトがあります」

 腎臓は血液をろ過しているが、異常があると尿にタンパクが大量に漏れてくる。尿タンパクを調べる市販の尿検査キットもあるが、判定を見誤るケースもあるので、病院の検査を受けた方がいい。血清クレアチニンは血液中の老廃物の量を示す数値で、腎臓が悪いと老廃物が尿に排出されにくくなるので血液中の量が増えるというわけだ。

■超音波検査でハッキリわかる

 血清クレアチニン値は筋肉量や脱水の度合いで腎臓に異常がないにもかかわらず悪く出る場合もある。その場合、超音波検査で調べれば、本当に腎臓が悪いかどうかだいたい診断できるという。

 また、腎機能は軽視されやすく、健診の数値が少しくらい悪くても医師から指摘されない場合もある。例えば、菊池院長が診た患者の中には、こんなケースもある。

 健康志向の高い70代の女性で、健診結果の血清クレアチニン値が高く、自分でGFR推算値を算出すると50台。健診結果を渡されるときに医師から何も指摘されなかったので、心配になって来院してきたという。

「この患者さんを再検査するとGFR推算値は65と正常で、超音波でも腎臓の大きさや形に異常はありませんでした。なぜ健診時の血清クレアチニン値が高かったかといえば、もともとの食生活で塩分制限のしすぎと水分摂取量が少なかったのです。いくら健康志向といっても、高齢者の場合、塩分を控えすぎると体内の水分を保持できず脱水の状態になってしまいます。それで血液が濃くなり、血清クレアチニン値が高かったのです。水分もお茶や嗜好品などを含めて1日に1・5~2リットルは欲しいです」

 腎臓が悪くなく、高血圧や肥満がなければ過度な塩分制限の必要はない。健康な人は塩分と水分が足りない脱水が腎臓に悪いという。このようにCKDの人と健康な人とでは、腎臓を守る食事制限が異なることを覚えておこう。

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