歯の疑問 ずばり解決!

専用のブラシと洗浄剤を使う 正しい入れ歯の手入れと保管法

【Q】 特別養護老人ホームで介護職員として働いています。入居者の入れ歯の手入れはどのようにするのが正しいのでしょうか?

【A】 入れ歯の形態と材質を把握したうえで、正しい清掃方法と保管方法を考えましょう。

 入れ歯には「部分入れ歯」と「総入れ歯」があります。その大きな違いは、歯が残っているかいないかで、部分入れ歯は残っている歯に負担をかけて装着し、総入れ歯は歯ぐきにくっつけているだけです。材質も、ピンク色のレジン(プラスチック)と人工の歯だけでできているものもあれば、金属を使って薄く仕上げているものもあります。

 清掃方法で一番大事なのは専用のものを用いることです。歯ブラシとは違う専用のブラシがあり、歯磨き粉も専用の義歯洗浄剤があるのです。レジンは「多孔質」といって、顕微鏡で見ると目に見えない穴がたくさん開いていますから、その穴に汚れ(プラーク)がたくさん付着していきます。専用のものがあるのは、入れ歯を傷つけないようにするのと、汚れが付着しやすい材質なためです。市販のものだけでなく歯科医院で販売されているものもとても多いので、かかりつけの歯科医院で相談されるのがいいでしょう。

 また、入れ歯は乾燥すると割れやすくなってしまうため、夜、お休みになるときは乾燥しないように専用の薬液につけて専用ケースに入れて保管すべきです。以前、この連載でお話しした誤嚥(ごえん)性肺炎は入れ歯が汚れてしまった方にも多く起こります。歯がないからきれいになったわけではなく、入れ歯自体も細菌で汚れてしまうので、介護されている方だけでなくご本人にも正しい管理の仕方を学んでいただきたいと思います。ちなみに、介護が必要ではない方ですが、僕にとって印象深い患者さんがいらっしゃいます。最初は「入れ歯を自宅で犬が噛んでバキバキに割れてしまった」と嘆き、次は「ショッピングモールのトイレに入れ歯を流してしまった」というのです。想像をはるかに超える事件に謎は深まるばかりですが、私たちは患者さんのことを思って一生懸命作っているので大切に扱ってくださることを祈っています。 (構成=小澤美佳)

北沢伊

北沢伊

1977年7月8日、長野県生まれ。斉藤歯科医院院長。2003年に日本大学松戸歯学部を卒業。同年から同院に勤務し、13年から院長に就任した。若手歯科医師に向けたセミナーの講師を務め後進の育成にも取り組んでいる。日本口腔インプラント学会専門医。千葉県歯科医師会所属。

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