ドクター牧田 最強の食事術

「食の起源」が語る ヒトが糖質を抑えて肉を食べるべき理由

 私は糖質を抑えて肉を食べた方がいい、理想は縄文人の食事などと主張してきました。今回は食の起源の面からその理由をお話ししましょう。

 私たちの祖先とされるアウストラロピテクスは300万年ほど前にアフリカの森で暮らしていました。当時はカロリーの大半は植物から取っていたようです。それは体形に反映していて、角ばった顎や大きな歯、大きな消化器官などは食物の繊維質を噛み切り、消化するのに適応していたと考えられています。120センチ足らずの上背で体重も約18キロ程度と小柄なのは茂みの中で植物採取するのに都合が良かったからです。

 ところが、地球が寒く乾燥してきてジャングルの一部が森林や草原になると、木から下りて肉食獣が食べ残した動物の死骸の中から脚の骨や頭蓋骨を石器で砕いて、カロリー豊富な骨髄や脳を食べるようになります。

 そしていまから約50万年前になるとホモ・エレクトスが登場し、ネズミや爬虫類を捕まえて食べるようになります。この頃には動物性の食べ物が総摂取量の65%まで占めるようになったとされています。動物の脂肪と筋肉は植物よりもカロリーが豊富で一口ごとに吸収されるエネルギーも大きく、動物の肉に含まれる栄養素が人間と同じ16種類のアミノ酸を持っていたため簡単に人の肉に転化されて体も大きくなりました。実際、ホモ・エレクトスは約183センチと大型で力が強かったとされています。つまり動物の肉で得たより多くのカロリーと体格が狩りや戦い、縄張り争い、生殖活動に使われ、人類はアフリカからヨーロッパに移り住むことを可能にしたのです。

 また、ホモ・エレクトスはアウストラロピテクスの脳より3割以上大きく、中身も発達していたことがわかっています。「脳の大型化」の理由は動物の肉に豊富に含まれる長鎖脂肪酸によるものだともいわれています。

 そして人間には他の動物と違い高度の脳の割に体が小さいという特徴があります。食肉により植物の摂取量が減ったことで、食物を消化する大きな消化器官は必要なくなったためだともいわれています。一説には、人類の消化器官は他の霊長類の6割程度まで縮小したそうです。もちろん、植物の摂取量が減ればそれをすりつぶすための頑丈な顎や大きな歯は必要ありませんからいずれも小さくなったのです。

 最初の現生人類と考えられているネアンデルタール人とその後継のクロマニョン人は狩人で、クロマニョン人は総カロリーの3分の2は動物性食物から得ていて、「当時はトップレベルの肉食獣」だったと表現する学者もいるほどです。

 興味深いのは狩猟で生活していた時代の人骨は、長身で体が頑丈で比較的病気が少なかったとされますが、農耕が始まると身長が10センチほど縮まり、病気もみられるようになり近代に向けて縮む一方だったという点です。

 農耕で得た穀物の安定供給による利点も多いのですが、肉食が人類をその姿形を含めて変えていったことは知っておいた方がいいでしょう。

牧田善二

牧田善二

AGE牧田クリニック院長、医学博士、糖尿病専門医。1979年、北海道大学医学部卒業。ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで糖尿病の合併症の原因とされるAGEを研究。96年から北海道大学医学部講師、2000年から久留米大学医学部教授。03年から糖尿病をはじめとした生活習慣病および肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開院、延べ20万人以上の患者を診ている。著書に「医者が教える食事術 最強の教科書」(ダイヤモンド社)ほか、多数。

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