病み患いのモトを断つ

東大大学院教授が解説 スロトレで認知症予防・がん抑制

4秒かけてゆっくりと(東大大学院教授の石井直方氏)
4秒かけてゆっくりと(東大大学院教授の石井直方氏)/(C)日刊ゲンダイ

 松本人志や春日俊彰らマッチョ芸人は少なくない。筋肉ブームに拍車をかけたのが、昨夏に深夜放送でバズったNHKの「みんなで筋肉体操」だろう。その新春スペシャルの放送が決まり、来年も筋肉ブームが続きそうだ。番組に登場するほどの筋肉自慢はともかく、中高年では、筋肉の有無が生活の質を左右するという。「筋肉博士」の異名を持つ東大大学院教授の石井直方氏に聞いた。

 酔っているわけでもないのに転ぶことがある。段差もないのに……。50歳を過ぎたころから、そんな悩みを聞くようになる。

「年のせい」でゴマカしがちだが、筋肉の衰えはそんな生やさしいものではないのだ。

「加齢で筋肉が減り、筋力が低下することをサルコペニアといいます。その影響を強く受ける筋肉は、太ももの前、お尻、お腹、背中、つまり足腰の筋肉です。太ももの前の筋肉が衰えると、足が上がりにくくなり、歩幅が狭くなります。歩行が不安定になる原因の一つはそれで、つまずきやすくなるのです」

 筋肉量は一般に30歳くらいをピークに緩やかに減っていく。50歳を過ぎると、下り坂が急になり、80歳になると30歳の半分だ。筋肉量が特に減りやすいのが、太ももの前だという。

「寝たきりになると、太ももの前の筋肉は1日0・5%も減るのです」

 転んでケガするのが嫌で引きこもると、虚弱状態が悪化する悪循環に陥るが、筋肉の働きは、運動器としての働きだけではないという。

「筋肉は、じっとしていてもたえずエネルギーを消費し、熱をつくり出しています。体の中の“ストーブ”の役割が2つ目です。足腰の筋肉は、体の中では比較的大きな筋肉。その減少は、ストーブの熱量低下を意味します。年を重ねて、冷えを感じるのは、筋肉量が減っている証拠です」

■筋肉貯金のおかげで悪性リンパ腫を克服

 3つ目が、内分泌器官としての働きだ。筋肉をよく動かすと、ホルモンのような働きをする生理活性物質(マイオカイン)が分泌されることが分かってきたという。

「体を動かすと、筋肉からマイオカインの一つイリシンが分泌されます。イリシンは、認知症予防の点で注目されているのです」

 イリシンが血流にのって脳に運ばれると、脳の神経細胞の働きを活発化し、細胞の新生や再生、シナプスの形成を促す役割の一端を担っているという。筋トレは、認知症予防の可能性を秘めているのだ。アルツハイマー型認知症のリスク因子のうち、運動不足は1・8倍で、高血圧や喫煙の1・6倍、糖尿病の1・4倍より高い。

 マイオカインは30種類以上見つかっていて、スパークは、大腸がんのリスクを抑えることが分かっている。あくまでも動物実験だが、3年前に悪性リンパ腫を克服した石井氏はこうも言う。

「ボディービルで鍛えた“筋肉貯金”のおかげで、ステージ4の末期から生還できたのかもしれません。がんが進行すると、筋肉が分解されてやせ細ります。骨髄移植前の無菌室でスロトレしていたのは、僕くらいでしょうね。僕と同じがんを告白した笠井信輔アナも、ぜひ病気を克服してほしいと思います」

 筋力の低下は、中高年の不調と関係が深い。その手っ取り早い解消法が、スロトレの定番スロースクワットだという。

「4秒かけてしゃがみ、4秒かけて立ち上がる。それだけです。不安定ならイスを使っても構いません」

 1セット10回。ラジオ体操のように習慣化し、慣れたら負荷を増やせばいい。

 きょうから始めよう。

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