ガイドライン変遷と「がん治療」

乳がん<1>治療の主役は薬物療法 手術編より100ページも多い

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 ただあまりにも情報量が多いため、我々一般人には到底歯が立ちません。それどころか医者の間からも、「いずれ人工知能の助けが必要になりそうだ」といった声が上がり始めているほどです。そんな状況なので、ここでは主に治療について、ごく基本的なところに絞って見ていくことにしましょう。

 しかしその前に、乳がんは医者のあいだで「全身疾患」と言われているのをご存知でしょうか。大抵のがんは「局所病変」なので、他臓器への転移がなければ、局所療法である外科手術が治療の中核になります。ところが乳がんは、かなり早い時期から、目に見えない微小な浸潤や転移が始まっているらしく、手術だけでは根治しずらいのです。その意味で「全身疾患」と呼ばれているわけです。

「ならば全身療法」というわけで、乳がんの治療には、薬物療法が欠かせないものになっています。それは診療ガイドラインの構成を見ても明らかです。治療編の最初の約200ページが薬物療法に当てられており、手術はその後に約100ページ、放射線が80ページに過ぎません。また遺伝子も含めた乳がんのタイプが、薬物療法を行う際の重要な鍵になっていますが、そのため疫学・診断編でも多くのページが、薬物療法と関連した内容になっているのです。

 乳がんと診断されたら、薬物療法は避けられないと思ったほうがよさそうです。

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永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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