ガイドライン変遷と「がん治療」

乳がん<2>ステージ区分と重視されつつある5つのサブタイプ

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 進行度(ステージ)は、治療方針を決めるうえで重要です。「腫瘍の大きさ」最大径)、「リンパ節転移の有無」「他臓器への転移の有無」決まります。

 最大径が2センチ以下で、かつリンパ節転移がければ「ステージⅠ」。5センチ以下で、脇の下のリンパ節に手で触れる転移が認められれば「ステージⅡ」です。また5センチを超えるものでも、リンパ節転移がなければ「ステージⅡ」に分類されます。一方、他臓器転移があれば、腫瘍の大きさなどによらず「ステージⅣ」。それ以外が「ステージⅢ」です。とくに「肋骨」、「筋肉」(胸筋)、「皮膚」などに腫瘍が広がっているものは、腫瘍の大きさに関わらずステージⅢと判定されます。

 最近では「サブタイプ」と呼ばれる分類が、とくに薬物療法を行ううえで、重視されています。「ホルモン受容体」、「HER2タンパク質」、「Ki67」(乳がんの進行速度を示すマーカー)をもとに、図のように5タイプに分類されています。乳がんのなかには、女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)に反応して細胞分裂を活発化させるものがあります(ホルモン受容体陽性)。また細胞分裂を促進させるHER2タンパク質を大量に作り出しているものがあります(HER2陽性)。またKi67が高いと、進行速度が速いと判断されます。

 日本人はルミナルA型がもっとも多いと言われています。進行が比較的遅く、ホルモン療法がよく効くタイプです。ルミナルB型は、A型よりも悪性度が高いと言われています。ただしA型は細胞分裂が遅いため抗がん剤が効きにくく、B型のほうが効きやすいとされています。HER2陽性のタイプには、効果的な分子標的薬が開発されています。一方、トリプルネガティブの乳がんには、ホルモン療法が効かず、まだ有効な分子標的薬がないため、治療が難しくなります。

 サブタイプは国立がんセンターの公式サイトである「がん情報サービス」にも載っていますから、常識のひとつと言ってよさそうです。ただし診療ガイドラインには、検査方法によってサブタイプが違ってくることがあるので「臨床で使用する場合には、十分な注意が必要」と書かれています。まだ「標準」とまでは言えないようです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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