ガイドライン変遷と「がん治療」

乳がん<3>「術前補助薬物療法」は抗がん剤の組合せで3~6カ月間

(C)Chinnapong/iStock

 乳がんと診断されても、いきなり手術になることは、ほとんどありません。まずは「術前補助薬物療法」が始まります。薬で腫瘍を小さくできれば、再発リスクが下がるからです。また全切除が必要とされていた患者でも、部分切除が可能になることがあります。

 ガイドラインの初版(2004年)の時点では「手術可能な早期乳癌」(一般的にステージⅠないしⅡAまで)に対してのみ「乳房温存率を向上させる」効果があるので”弱く推奨する”とされていました。使用するのは「アンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤」(いずれも抗がん剤)で、ガイドラインには期間は明記されていませんでしたが、通常は3~6カ月でした。

 解説によれば、この治療で2~3割の患者さんが、完全奏効(画像などに腫瘍が写らないほど縮小した状態)を期待できるとのこと。ただし薬を止めれば徐々に復活してくるので、完治したのではありません。手術は必要です。

 現在(2018年版および追補版)では、術前薬物療法の対象は「手術可能な浸潤性乳がん」(一般的にステージⅢまで)に拡大されています。また抗がん剤だけでなく、ホルモン療法やHER2阻害剤も使えます。

 抗がん剤は、現在はAC療法(アドリアマシン+シクロホスファミド)として知られる組み合わせが主流になっています。期間は3~6カ月とされています。

 ホルモン療法は、単純に女性ホルモンを打つことだと思ってしまいがちですが、実際はそれと真逆です。女性ホルモン受容体が陽性の乳がんは、女性ホルモンを取り込むことによって活発に増殖します。ですから使う薬は、女性ホルモンを阻害する働きがあるものです。もっとも広く使われているのが「タモキシフェン」という薬です。

 閉経前の患者に対しては、「LH-RHアゴニスト製剤」が使われることもあります。女性ホルモンは卵巣で作られますが、それには脳からの「ホルモンを作れ」という指令が必要です。その指令をブロックしてしまう薬です。

 閉経後の女性は、主に皮下脂肪で、マルターゼという酵素の働きで女性ホルモンが作られます。そのため閉経後の患者に限って、マルターゼ阻害剤が使われることもあります。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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