ガイドライン変遷と「がん治療」

乳がん<4>「強く推奨」となったハーセプチンによる術前薬物療法

(C)takasuu/iStock

 HAR2は細胞の分裂と増殖に関わるタンパク質の一種で、正常な細胞にもあります。ところが乳がん細胞のなかには、それを異常に多く持っているものがあるのです。それが「HAR2陽性」の乳がん、全患者の10%ほどを占めています。増殖力が強く、陰性の乳がんよりも悪性度が高いとされています。

 HAR2タンパク質と結合して、その働きを邪魔するのがHAR2阻害薬。代表は分子標的薬のトラスツズマブ(商品名ハーセプチン)です。日本では2001年に、手術できない進行乳がんの治療薬として承認され、順調に適応範囲を広げて、2011年11月には、乳がんの「術前治療」に使えるようになりました。それ以前に術前療法を受けたひとでは、ハーセプチンは使われていませんし、ガイドラインにも出てきません。 最新のガイドライン(2018年版および追補版)には

「HAR2阻害剤と抗がん剤の併用は、高い確率で完全奏効(画像上は腫瘍が完全に消えた状態)を獲得できる」

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永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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