ガイドライン変遷と「がん治療」

乳がん<4>「強く推奨」となったハーセプチンによる術前薬物療法

(C)takasuu/iStock

「手術可能なHER2陽性浸潤性乳がんに術前化学療法を行う場合、ハーセプチンを併用することを強く推奨する」

 と明記されています。

 一緒に使われる抗がん剤は、主にドセタキセル、パクリタキセルなど「タキサン系」と呼ばれる薬で、がんの細胞分裂を阻害して増殖を抑える働きがあります。ハーセプチンもがん細胞の増殖を抑えますから、いわばダブル効果で敵を封じ込めるわけです。

 2018年には、別の分子標的薬であるペルツズマブ(商品名パージェタ)が承認されたため、最近では3剤併用療法も広まっています。ただしまだエビデンスが少ないため、ガイドラインでは「弱く推奨」となっています。なおHAR2陽性乳がんには、ホルモン療法があまり効かないので、併用することはあまりありません。

 ハーセプチンの投与期間は、術前・術後合わせて1年間とされています。たとえば術前に抗がん剤と一緒に3カ月投与したとすると、術後さらに9カ月間、ハーセプチンを使い続けるわけです。

 ハーセプチン自体の副作用は弱めなのですが、一緒に使う抗がん剤には、吐気や脱毛その他の副作用があるため、ひとによっては辛い治療になるようです。

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永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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