ガイドライン変遷と「がん治療」

乳がん<6>「腋窩リンパ節郭清」の扱いが15年前と違ってきた

(C)Ksenia Shestakova/iStock

 乳がんは原発巣から最寄りのリンパ節(センチネルリンパ節)へ、さらに腋窩リンパ節(脇の下のリンパ節)へと転移を広げていきます。

 術前の所見で、リンパ節転移がないと診断された患者に対しては、手術中に必ず「センチネルリンパ節生検」(病理診断)が行われます。その結果によって、腋窩リンパ節郭清を行うかどうかを判断するわけです。

 診療ガイドラインの初版(2005年)には「転移陰性を判断された場合に(腋窩リンパ節の)郭清を省略するだけの根拠はある」という微妙な表現になっていました。それが最新版(2018年)では「省略することが標準治療である」と言い切っています。ですからいまの患者で、センチネルリンパ節転移が陰性だった患者には、腋窩リンパ節郭清は原則として行われません。

 しかし術前の画像診断や触診や、術中の検査などで、明らかな腋窩リンパ節転移があると判定された患者は、言うまでもなく郭清の対象者です。その郭清の範囲ですが、初版のガイドライン(2005年)ではレベルⅢまでとされていました。

 腋窩リンパ節の郭清は、レベルⅠからⅢまで、3段階に分かれています。レベルⅠは、小胸筋の外側に並ぶリンパ節のみの切除。レベルⅡは小胸筋の裏側のリンパ節まで切除。レベルⅢは小胸筋よりも内側の、鎖骨に沿って並ぶリンパ節までという、かなり広範囲に及ぶものです。2005年の時点では、対象患者全員に対して、レベルⅢの郭清が推奨されていたわけです。

 しかし最新版(2018年)には「レベルⅡまでの郭清が標準である」とされています。とはいえ、手術中に明らかなレベルⅢのリンパ節転移がある(と疑われる)場合には「その範囲を含めた十分な郭清をすることが望ましい」とも書かれています。つまり「標準的にはレベルⅡまでだが、レベルⅢの範囲に広がっていれば、全部切りなさい」と言っているわけです。

 リンパ節郭清を行った患者の半数には、上腕の浮腫(むくみ)や、長期にわたる傷みやしびれなどの後遺症が現れると言われています。ただ残念ながら、ガイドラインには、標準的な治療法や対処法はほとんど触れられていません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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