進化する糖尿病治療法

糖尿病の新常識 「血糖」「血圧」「脂質」のチェックが重要

自動血糖測定器でいつでもチェック
自動血糖測定器でいつでもチェック(C)PIXTA

 2020年連載1回目の今回は、これまでの“常識”とは大きく変わった糖尿病の知識を改めて紹介したいと思っています。

 まずは、なんといっても、「糖尿病は治る病気だ」ということです。これまでは、「糖尿病は一度発症すると一生付き合っていかなければならない。つまり治らない」が常識でした。本来持っている「高くなった血糖を正常に戻す」という機能が十分に働かなくなるからです。

 患者さんの中には、最初は生活習慣の改善に取り組むものの、「どうせ治らないんだろう」という気持ちから、治療をドロップアウトしてしまう人も少なくありませんでした。そしてしばらくすると、また疲労感や口渇感など糖尿病の症状が表れ、病院にやって来る。「ドロップアウト↓再来院」を繰り返し、徐々に悪化が進み、最終的には人工透析や壊疽による足切断に至る人もいたのです。

 しかし糖尿病の新常識は、冒頭で申し上げたように、「糖尿病は治る病気だ」ということです。早期に糖尿病を発見し、対策を講じれば、インスリン産生にかかわるβ細胞が正しく働いて、必要量のインスリンを分泌できるようになり、インスリンを使い続けなくても済むようになるのです。特に重要なのは食事療法や運動療法で、集中的に体重コントロールに取り組むこと。その結果、内臓脂肪が減少し、血糖値が正常値にまで下がり、これまで「元通りになることはない」とされてきた膵臓の働きが正常化することは研究で証明されています。

 次に、「糖尿病=血糖のコントロールが重要」というかつての考えから現在は「糖尿病=血糖、血圧、脂質のコントロールが重要」という考えにシフトしてきていることを強調したいと思います。糖尿病は動脈硬化を進行させる病気のひとつであり、将来を見据えて治療を行う場合、血糖のコントロールだけでは不十分であることが明らかになっているからです。

 昨年10月の学会でインドの研究者が発表した論文は、食物繊維の摂取量の増加で血糖、血圧、脂質すべてが低下し、動脈硬化の進行が抑えられ、心・脳血管障害のリスクを下げることができたという内容でした。

 これら血糖、血圧、脂質は、一年の中でも変動することも押さえておかなければなりません。定期的に病院にかかっている人は別にして、たいていの人は、これら3つの数値を年に1回、健康診断の時に測定するだけでしょう。特に春~夏にしか測定していないという人は、今現在、思っている以上に数値が高くなっている可能性があり、要注意です。春~夏より秋~冬の方が、血糖、血圧、脂質の数値が高くなることは、私たちが行った研究ではっきり示されています。

 血液を採取しなくても、いつでもどこでも簡単に血糖(厳密には皮下の間質液の糖濃度)を測定できる「自動血糖測定器」が販売されていますので、できるならそれを用いて自身の血糖の年内変動を把握してほしい。「そこまではちょっと」というようであれば、せめて血圧、体重、体脂肪率、筋肉量などの変動はチェックしてほしい。血圧はご存じの通り家庭用血圧計が売られていますし、さまざまな測定機能がついた体組成計も比較的リーズナブルな価格で手に入ります。最近は職場に血圧計を置くところも増えていると聞きますし、新商品として時計型の血圧計も出ているそうです。

 糖尿病は血糖だけを見て治療を行っていてはいけない――。この考えから、アメリカでは心臓や腎臓などに好影響を及ぼすSGLT2阻害薬を第1選択薬にする動きが出ています。日本では長らくDPP―4阻害薬が主流でしたが、血糖を下げる効果は優れていても、そのほかの数値の改善には至りません。今後、日本でもSGLT2阻害薬が使われることが増えていくことでしょう。

 さらに糖尿病は、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がんなどがんのリスクを上昇させることも、近年の研究で判明しています。人生100年時代、長く健康的に過ごすために、糖尿病の正しい知識を持ち、対策に努めていかなければならないのです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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