遺伝子治療薬はここまで来ている

画期的な薬の開発で歩けなかった子供が歩けるようになった

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「脊髄性筋萎縮症」(SMA)に対する遺伝子治療薬のお話を続けます。SMAは、日本では指定難病で罹患率は10万人に1~2人です。

 SMN1遺伝子が明らかな原因遺伝子である先天性疾患ですが、これまでは対症療法しかなく、I型と呼ばれる重症症例では生後6~9カ月で亡くなっていました。それが、遺伝子治療薬が開発されたことにより、SMAで歩けなかった子供が歩けるようになったり、生存期間が延びるなど劇的な改善が見られています。SMAに対する遺伝子治療薬はまさに偉大な薬の誕生といえるでしょう。

 SMAに対する遺伝子治療薬は「スピンラザ」(一般名:ヌシネルセン)と「ゾルゲンスマ」(国内未承認)の2種類があります。他にも数種類が治験段階のようです。

 スピンラザは2017年9月に発売されました。その作用機序は画期的で、SMAの原因遺伝子であるSMN1遺伝子に直接アタックするわけではなく、「SMN1遺伝子の異常によって作られなくなったSMNタンパク質を補う」というものです。

 体内には、SMNタンパク質を作るもう1つの遺伝子であるSMN2遺伝子という遺伝子があります。スピンラザはそのSMN2遺伝子に結合して、正常なSMNタンパク質が作られるように促します。これによってSMN1異常で不足していたSMNタンパク質を補うことができ、治療効果を発揮するのです。

 核酸医薬品としても世界初で画期的なことに加え、原因遺伝子そのものを標的とせず、同様の働きをする遺伝子を標的にして不足している物質を補う、という抜け道のような治療法を実現させたことがまた画期的といえます。

 いずれにせよ、SMAに対する遺伝子治療薬は科学技術の結晶であり、治療困難だった患者と家族に希望もたらしたという点で、素晴らしい薬といえます。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

関連記事