大学受験生のための食事術

センター試験まであと6日「時間栄養学」で夜型から朝型に

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 いよいよセンター試験まで残り6日。全国55万7698人(大学入試センター、令和元年12月6日発表)の受験生も試験当日にパフォーマンスを発揮できるよう、体調管理がより重要な時期に入ってきた。親としてできることのひとつに食事がある。しかし、具体的にどうすればよいかわからない人も多いはず。そこで時間栄養学の専門家で愛国学園短期大学非常勤講師の古谷彰子氏に話を聞いた。

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「受験生はセンター試験が行われる時間帯に体も頭もよく働くよう、リズムを作っておかなければなりません。そのためには『夜型』の受験生は『朝型』に切り替える必要があります。それには朝ご飯を定時にしっかり食べることです」

 なかには「食欲がない」からと朝食を抜く受験生もいるが、朝食は単にエネルギーを補充するために摂ってきるのではない。1日の活動の起点となる、脳への刺激のためでもある。

「私たちは1日24時間で生活していますが、人間の体内時計は24.5時間で、放っておくと少しずつズレていきます。それを“さあ、昨日までのリズムを切り替えましょう、いまから新しい日ですよ”とリセットするのが『朝の光』と『朝食』による脳への刺激なのです。ところが今の時期は日が昇るのは遅く、太陽光の刺激が少ない。そのため、決まった時間にしっかり朝食を摂り、血液中のブドウ糖を増やして脳を刺激することがより重要なのです」

 脳に与える朝食のインパクトを可能な限り強め、「夜型」から「朝型」に変えるには、2つのことが重要になる。

 ひとつ目は、できるだけ夕食から朝食の時間を長くすること、もうひとつは朝食に糖質とタンパク質を多くとることだ。

「夜間の絶食時間が長いほどその日最初の食事のインパクトが強くなり、血糖値が上昇しやすければしやすい朝食ほど脳を目覚めさせます。ただし、深夜まで勉強すれば小腹がすいて食べてしまいます。それを避けるには遅くても食事は午後8時までには終えて午後10時くらいには寝ることです。また、ご飯やパンなどのGI値の高い食材(食後に血糖値が上がる=インスリン分泌が多い)はタンパク質と一緒に摂ると体に吸収しやすいことがわかっています。魚油は頭の回転を速くします。朝食はご飯と焼き魚という組み合わせが良いかもしれません。毎日食べるのが難しかったらDHA、EPAをサプリメントでとるのも良いでしょう。なお夕食は軽めにしましょう、できたら朝食と昼食と夕食の食事量を4対3対3にするのが良いでしょう」

■受験のうつ状態を解消する食事

「そもそも夜遅くまで勉強している受験生は『食の刺激』においても、『光の刺激』においても、正常な状況ではありません。塾通いで帰宅が遅く夕食も遅いうえ、夜食まで食べるために朝食欲がわかず、朝食抜きで学校に行くことになります。勉強で夜遅くまで明るい照明にさらされ、勉強の合間に楽しむテレビやスマホのディスプレイの強い光を目に浴び続けています。当然、睡眠不足に陥るし、生活リズムが狂います。知らず知らずのうちに肉体的ストレスを抱えているのです」

 受験生は「落ちたらどうしよう」という精神的なストレスも抱えている。こうしたストレスは人間の2つの回路を狂わせる。ひとつはストレスホルモンを分泌する回路だ。コルチゾールはエネルギーをつくったり、集中力を高めたりなど良い働きをするが、このホルモンが出続けると炎症反応が起こり、免疫が抑制され風邪を引きやすくなったり、けがや病気が治りにくくなったりする。また、分泌が長期にわたると、脳の海馬と呼ばれる部分が障害を受け、高齢者の場合は認知機能の低下にもつながるという。

 もうひとつの回路は、自律神経系の経路だ。ストレスが自律神経系の橋・延髄に影響すると、交感神経が優位となり、副腎からアドレナリンが分泌されて、血圧上昇、心拍数増加などが起こる。ストレスがかかり続けて、視床下部・下垂体・副腎系や自律神経系の亢進(こうしん)が続くと、うつ病や不安障害などの精神疾患から、胃痛や食欲不振などの心身症まで、様々な障害が起きてくる。実際、ストレスが高じてうつ症状を発する受験生も少なくない。

「受験が近づいているのに、まったく勉強する気が起きない」「問題集や塾の授業に集中できない」「あれほど繰り返し勉強したところなのに、なぜか思い出せない」というのは多くの受験生が経験することだが、それは受験うつかもしれない。平成28年厚生労働省の患者調査によると、10代から急増。15歳~24歳のうつ病の有病率は全体の約3.3%で、成人でうつ病を患っている人を調べてみると多くが10代で発症。受験生が「うつ病」を患うことは珍しいことではないのだ。

「受験に成功させるには、こうしたストレスを緩和させる食事を考える必要があります。ストレス解消に甘いお菓子ばかり食べているとカルシウムやマグネシウムといったミネラルが不足して、余計にイライラします。カルシウムが豊富な干しエビやしらす干しなど小魚類、納豆などの大豆製品、チーズなどを積極的に摂るようにしましょう。ただし、カルシムを吸収するにはビタミンDが必要です。干ししいたけなどを同時に摂るとよいでしょう。また、カルシウムの働きを高めるマグネシウムはアーモンドや落花生、ひじきなどにも含まれています。コレステロールは、体がストレスと戦ううえで必要な副腎皮質ホルモンの原料になります。また、ストレスにさらされると、数種類のホルモンが盛んに分泌され、タンパク質の分解を促進させます。すると、肌が荒れ、疲れやすくなったり、脳の働きが低下したりします。これを避けるには牛肉がお勧めです。アラキドン酸というアミノ酸が含まれ、これがアナンダマイドという心の不安を和らげる物質に変わります。ただし、脂肪の多い肉は記憶力を低下させるため、ヒレなどの赤身等、脂肪分の少ない肉がいいでしょう」

 また、アドレナリン分泌が盛んになると、ビタミンCの消耗は激しくなる。体には約1500mgのビタミンCの貯えがあるが、ストレスが多いとどんどん消費されてしまう。

「ビタミンCの栄養所要量は、1日100mgですが、ストレスのかかるこの時期は多めにとることを心がけましょう」

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