絶対に風邪をひかないための技術 ベテラン内科医が教える

予防に有効なマスクは正しく使うのと…
予防に有効なマスクは正しく使うのと…

 大事な商談を控えたビジネスマンや試験直前の受験生とその家族。今の時期、絶対に風邪をひいてはいけない人たちがいる。現実には風邪を完全にシャットアウトはできないが、発症率を確実に下げるエビデンスに基づいた方法はあるはずだ。この時期は、毎日のように風邪やインフルエンザ患者に向き合いながら診療を続ける「弘邦医院」(東京・葛西)の林雅之院長に話を聞いた。

「インフルエンザや風邪は、その原因となるウイルスや細菌が『飛沫』や『接触』により手にくっつき、その手で口や鼻や目に触ることで体内に侵入します。そのためインフルエンザや風邪を予防するには、①感染した人が触ったものに触らない②飛沫が届くであろう1~2メートル以内にはできるだけ近づかないことが大切です。とはいえ、それを守っていたのでは社会生活はできません。そこで必要となるのが③マスク着用④こまめに手洗いすることなのです」

 マスクのフィルターの網目はウイルスよりも大きいので役に立たない、という意見がある。インフルエンザは空気感染するとの報告もあるので、それが本当ならその点では意味がないかもしれない。しかしインフルエンザや風邪の感染の多くは飛沫、接触によるといわれており、マスクはその予防には有効だ。

「マスクは飛沫が直接口や鼻に侵入するのを防ぐだけでなく、感染した手で口や鼻を直接触ることも防ぎます。豪州のニューサウスウェールズ大学の研究によると、人は、1時間で平均23回、無意識のうちに顔を触り、接触時間は口が2秒、目や鼻が1秒と報告しています。マスクはこうした行為による感染リスクを大幅に下げます」

 マスクは口や鼻の中の温度を上げる。その結果、冬の寒さで滞りがちな血流を改善する。そうすると免疫細胞が体内に侵入したウイルスや細菌を素早く発見し対処できる。問題はメリットの多いこうしたマスクを一般の人は正しく使えていないことだ。

「マスク着用に関しては3つの厳守すべきポイントがあります。(a)鼻と頬の隙間のできないマスクの選択(b)まめに捨てる(c)マスクの表面を絶対に触らないです。1日に使い捨てマスクを4~5枚使うくらいでいいと思います。ただし、マスクの着脱は必ずひもの部分をつまんで行い、外した後は必ず手を洗い、きれいな手で新しいマスクをつけましょう」

 1日11回以上手洗いする人は風邪になる確率が半分になるとの報告がある。睡眠時間を8時間とすると1時間半に1度の手洗いとなる。指先や爪の中、指と指の間、親指は丁寧に洗うことだ。

「手を洗った後は使い捨てのペーパータオルを使用しましょう。インフルエンザウイルスはつるつるした場所では24時間、布などでは8時間近く生きているといわれています。一日中同じハンカチやタオルを使ったり家族共用のものを使ったりするのは考えものです」

 病院の入り口にはアルコール消毒剤が用意されている。手洗いが手に付着したウイルスや細菌をせっけんにくっつけて洗い流すのに対して、アルコール消毒剤はウイルスの働きを弱めて殺すことを目的としている。15秒のアルコール消毒は30秒の手洗いに勝るとの報告もある。薬局などで購入して家庭で使うのもいいだろう。

■部屋は室温22度、湿度50~60%に設定

 電車やバスのつり革、ドアノブ、電話、硬貨やお札、パソコンやエレベーター、温水洗浄便座のボタン、階段の手すりなど、不特定多数の人が使うものを触るときは手袋をするといい。

 受験生の場合、これからの期間はボールペンやノートや教科書などの貸し借りを控えることも予防対策となる。

「そこまでやる必要があるのか、と思う人もいるでしょうが、絶対にインフルエンザや風邪をひきたくなければ必要です」

 部屋はウイルスや細菌が活動しにくい室温22度、湿度50~60%に設定する。

「うがいも大切です。京都大学の研究では外出後にうがいをする人としない人でその後、風邪をひいた人数を比べたところ、前者の方が少なかったことが報告されています。私は1日3回以上うがいをするように心がけています」

 人前に立つ医師は絶対にできないが、無糖のガムを噛むことで唾液を分泌させて、口腔内や咽頭を守るのも手だという。

「私は、インフルエンザシーズンに、家族がインフルエンザにかかり、どうしても休めないときなどに予防投与としてタミフルを飲むようにしています。どうしてもインフルエンザになりたくなければ、ひとつの方法だと思います。ただし、タミフルには中枢神経への影響があるとの見方もあり、タミフルを飲んだ子供がビルから飛び降りた、という事件がありました。受験生の場合はタミフルの中枢神経への影響が受験のパフォーマンスに影響を及ぼすリスクも考えて服用する必要があります」

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