「子供に行き過ぎた除菌は必要ない」免疫学の専門家が指摘

腸内細菌の種類は3歳までに決まる
腸内細菌の種類は3歳までに決まる

 日本が世界有数の“腸内細菌大国”になるかもしれない。

 健康な男女1200人の腸内細菌を集めて生活習慣との関連を調べている「医薬基盤・健康・栄養研究所」が、データ収集の対象を世界最大規模の5000人に拡大。生活習慣や環境によって腸内細菌の種類や数がどれくらい変わるのか、その違いが健康状態とどう関連するのかを調査し、データベースを5年以内に公開して、薬の開発や病気の予防に活用してもらいたいとしている。

 それくらい腸内細菌はさまざまな病気やアレルギーに関わっている。東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎氏は言う。

「腸内細菌は人間の腸内に100兆個も存在していて、病原菌の排除や免疫力を高めて病気を防ぐ役割も担っています。糖尿病、動脈硬化、がん、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患をはじめ、うつ病にも大きく関係しているのです。生息している腸内細菌の種類と数が多ければ多いほど、サポート効果がアップして免疫機構が鍛えられ、病気やアレルギーが発症しづらくなります。病気の予防や健康維持のためには、腸内細菌の種類と数を増やすことが重要なのです」

 腸内細菌は、ビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉菌」、大腸菌などの「悪玉菌」、それ以外の「日和見菌」の3つのグループがある。中でも重要なのが日和見菌だ。日和見菌は腸内細菌の4分の3以上を占めていて、腸内の善玉菌が優位になると善玉に協力し、逆に悪玉菌が増えると悪玉の味方につく。病気の予防や免疫力をアップさせるには、強い抗酸化作用によって健康に役立つ善玉菌の優位を保ちながら、サポートする日和見菌の種類と数を増やす必要があるのだ。

■種類と数の多さが免疫力を高める

 日和見菌の種類をいかに増やせるかは、3歳までの生活ぶりが大きなカギを握っている。

「ヒトの腸内細菌の種類は生後3年間でほぼ決まるといわれ、それまでに体内に取り込んだ細菌がIgA抗体とくっついて定着することがわかっています。無菌状態だった母親の胎内から生まれてきた赤ちゃんは、そこらじゅうをなめて回ります。これは、多種多様な細菌を早く体内に取り込んで腸内細菌の種類と数を増やし、免疫機構を鍛えるためだと考えられているのです」(藤田氏)

 われわれの生活環境には、あらゆる所に無数の細菌が存在している。ただ、そのほとんどが無害なもので、人間に害を与えるような病原菌はごくわずかしかいない。3歳までの間にそうした無害な細菌といかに共存できるかが、免疫機構の強化に密接に関係しているのだ。

 実際、スウェーデンの研究グループは「手洗いよりも細菌を減らす効果が高い食洗機を使っている家庭の子供は、アレルギー発症リスクが2倍になる」と報告している。また、「子供が乳児期からペットを飼っていた家庭は、まったくペットに触れていなかった家庭に比べ、アレルギー疾患の発症が約16%低い」というデータもある。ペットを介してさまざまな細菌と接触する機会が多い分、免疫機構が鍛えられるという。

 日本の国立成育医療研究センターによる研究でも、2歳までに一回でも抗菌薬を使用したことがある子供は、5歳の時点で気管支ぜんそくになっているオッズ比が1・72、アトピー性皮膚炎が1・40、アレルギー性鼻炎が1・65といずれも高かった。2歳までに抗菌薬を使って腸内細菌が乱れたことが、アレルギー疾患の発症に影響した可能性が指摘されている。

「近頃は『除菌』や『殺菌』を売りにした商品が数多く出回っています。しかし、無害な細菌まで根こそぎ死滅させるような行き過ぎた清潔志向は、かえってアレルギー疾患などの病気にかかりやすくしてしまうのです」(藤田氏)

 世界最大規模の腸内細菌データベースが完成すれば、過剰な除菌ブームが見直される可能性もある。

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