■「生きたい」と思ってもなかなかそうは言えない
医者や看護師の考え方が、きっと間違っていることではないのでしょう。ですから、私は反論することもありませんでした。後で分かったのですが、あれが「人生会議」ってやつだったと思うのです。でもあれじゃあ、本当の人生会議ではないですよね。
医者と看護師が帰って兄と私だけになった時、「兄さん、あれで良かったの? 私には『いい治療法があったら探してくれ』と言っていたじゃないか。もう、探さなくていいの?」と尋ねました。すると、兄は「いいんだ。最後はあの医者と看護師に頼むしかないのだから」と答えます。
私は思いました。
病気になった者は立場が弱い。あんなになると負け組なんだ。「あなたにとって最善の方法を」と言われても、「なにかいい治療法はないか……生きたい」と心で思っても、なかなかそんなことは言えない。もし、そんなことを言ったら、きっと「お金持ちでもないのに、あの年寄りがまだ生きたがっている」そう思われるだけなんだ。
がんと向き合い生きていく