がんと向き合い生きていく

「意思を尊重する」と言いながら既定路線は決まっている?

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■「生きたい」と思ってもなかなかそうは言えない

 医者や看護師の考え方が、きっと間違っていることではないのでしょう。ですから、私は反論することもありませんでした。後で分かったのですが、あれが「人生会議」ってやつだったと思うのです。でもあれじゃあ、本当の人生会議ではないですよね。

 医者と看護師が帰って兄と私だけになった時、「兄さん、あれで良かったの? 私には『いい治療法があったら探してくれ』と言っていたじゃないか。もう、探さなくていいの?」と尋ねました。すると、兄は「いいんだ。最後はあの医者と看護師に頼むしかないのだから」と答えます。

 私は思いました。

 病気になった者は立場が弱い。あんなになると負け組なんだ。「あなたにとって最善の方法を」と言われても、「なにかいい治療法はないか……生きたい」と心で思っても、なかなかそんなことは言えない。もし、そんなことを言ったら、きっと「お金持ちでもないのに、あの年寄りがまだ生きたがっている」そう思われるだけなんだ。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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