膝が痛いが手術はイヤだ…注射1本でOKの新治療PRPとは?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 膝痛治療の新たな選択肢として注目を集めているのが、再生医療だ。済生会横浜市東部病院整形外科医長の谷川英徳医師に話を聞いた。

 谷川医師は膝関節専門の日本スポーツ協会公認スポーツドクターであり、マラソンによる半月板損傷経験者でもある。それゆえに膝痛のつらさはよりよく分かる。

「膝痛は消炎鎮痛薬やヒアルロン酸注射などの保存療法が効かなくなれば、次は人工関節などの手術療法しかありませんでした。しかし今は保存療法と手術療法の間に再生医療がある。選択肢が増えた意味は大きい」(谷川医師=以下同)

 膝痛の再生医療のひとつが「PRP療法」だ。自分の血液中の多血小板血漿(PRP)を取り出し、濃縮させたものを膝の炎症部分に注射する。PRPには「炎症抑制」「自己修復に必要な細胞の増殖促進」「コラーゲンの産生促進」といった作用があり、損傷した膝を修復・再生する。PRPは濃縮度の違いなどで注射する回数が異なる。海外では2000年ごろからスポーツ選手のケガなどにPRPが使われ始め、東部病院では昨年4月から導入している。

「新しい治療で、長期的な効果は分かりません。当院で使う高濃度のPRPの場合、欧米の臨床試験では保存療法が効かなかった変形性膝関節症の患者に1回注射すると、プラセボ(偽薬)群と比べて明らかに有意差があり、PRPの群は痛みが軽減した状態が1年半ほど継続しました」

 変形性膝関節症は関節がデコボコになって炎症が起こり、痛みが生じる。進行すると膝が変形し痛みが増す。進行度をグレード0から、最も重いグレード4の5段階に分類するが、臨床試験の対象になったのはグレード2~3の人。

「グレード2~3の人で疼痛スコアが平均して半減。膝が変形したグレード4でPRP療法を希望する人には、『PRP療法で膝の変形は治りません。ただ頻度は低いが痛みが軽減する人もいます。またグレード2~3より進行しているので、痛みの軽減も半分まではいかないでしょう』と説明しています」

 再生医療にはもうひとつ、「幹細胞医療」がある。自ら増殖し、骨・筋肉・脂肪などさまざまな組織になる幹細胞を採取し、膝の患部に注射する。主に行われているのは脂肪から採取する脂肪幹細胞移植だ。PRPよりもっと新しい治療法で、現段階で判明している痛み軽減の継続期間は半年。保険適用外で病院にもよるが通常150万円以上かかることが多い。

■保険適用外で費用は30万円

「PRP療法も保険適用外で、当院では1回の注射で終わり、費用は30万円です。自費診療なので価格は病院によって異なりますし、使用するPRPで注射回数も異なります。PRP療法の施術時間は1時間ほどで日帰りです。一方、手術(人工関節置換術)では入院が必要で200万円以上かかりますが、保険適用で、高額療養費制度(申請すればお金が一部戻る制度)も利用できるため、自己負担額は約10万円(年齢や所得によって変わる)ほどです」

 同じ膝痛患者でも「家族の介護で入院できない」「1年半程度の効果の持続期間でもPRP療法を選ぶ」「膝の変形を何とかしたいから手術」などニーズが異なる。谷川医師は各治療のメリット、デメリットを説明し、最も適した治療を選んでもらうようにしている。

 ちなみに「手術に匹敵する」といわれるほど膝痛に効果的なのが減量。膝痛で手術予定の人が、別の病気にかかり激痩せしたところ、膝痛がなくなり手術が不要になったケースもある。できるなら膝痛が悪化する前に食事改善と運動で減量を。谷川医師は今年4月から千葉県の白井聖仁会病院へ異動予定だが、PRP療法などの再生医療は東部病院で変わらず受けられる。

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