進化する糖尿病治療法

睡眠時間が短いと夕食後のカロリー摂取と体重が増える

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写真はイメージ(C)PIXTA

 患者さんによく言っていることのひとつが、「睡眠をしっかり取ってください。質の良い睡眠を取れるようにしてください」です。なぜなら、慢性的な睡眠不足が、糖尿病や肥満のリスクを上げることは研究ではっきりと分かっているから。

 中には「平日は仕事で忙しくて十分な睡眠時間を確保できない。だから休日に寝だめをするようにしている」という人もいるかもしれません。しかし、寝だめは生体リズムを狂わせ、夜になってもなかなか眠くならず、一方で朝の目覚めを悪くします。

 さらには、慢性的な睡眠不足と同様に、糖尿病や肥満のリスクを高めるのです。

 コロラド大学ボルダー校のケネス・ライト教授が、こんな研究結果を発表しています。それは、3つの健康パターンの影響を見たもの。

 まず、36人の健康な男女をランダムに3つのグループに分け、1つ目のグループには「毎晩9時間までの睡眠」、2つ目のグループには「睡眠時間を5時間に制限」、3つ目のグループには「睡眠時間を5時間に制限して5日間過ごし、次の2日間は好きなだけ遅くまで寝てもらう。そしてまた睡眠時間5時間に制限する」というようにしました。3つ目のグループは、つまりは「平日は睡眠不足、休日の2日間は寝だめ」ということですね。

 9日間、それぞれの睡眠パターンを取ってもらい、インスリンなどを調べたところ、「睡眠時間を5時間に制限」のグループでは、血糖を調整するインスリンが正常に働かなくなる「インスリン抵抗性」が高まり、夕食後のカロリー摂取と体重が増えていました。さらに、「5日間、睡眠時間を5時間に制限し、2日間、好きなだけ遅くまで寝てもらう」グループも、週末に睡眠時間を多く取ると夕食後のカロリー摂取は減少するものの、5時間睡眠に戻るとインスリン感受性が減少し、カロリー摂取量と体重が増えるという結果だったのです。また、高血圧のリスクも増やすという報告も多くあります。

 すでに糖尿病の人では血糖コントロールをよくするためにも、睡眠時間を7時間は確保してほしい。

 しかし、仕事でそれが難しい人もいるでしょう。そういう場合は、上手に昼寝を取り入れてほしいと思います。職場の昼休み、早めに昼食を済ませ、20分ほど昼寝を取るだけでも随分と違います。ぐっすり眠れなくても、目をつむっているだけでも、リフレッシュ効果を得られます。電車での移動時間などが多い人は、座っていられるなら、寝るか目を閉じるかして少しでも睡眠量を稼いでください。

■夜中にスマホはぜひともやめて

 ところで、私が問題視しているのは、仕事による睡眠不足に加え、スマートフォンによる睡眠の質の低下です。仕事で睡眠不足になるのは、言ってみれば仕方がないことです。しかし、ただでさえ睡眠が少ない上に、夜中にスマートフォンでネットサーフィンをしたり、SNSを見たりするのは、ぜひともやめてほしい。

 スマートフォンの光はブルーライトといって光の中で波長が短く、エネルギーが強いといわれています。夜にブルーライトを見ると、ガングリオンセルという視細胞が光を感知し、体内時計の重要な中枢といわれる脳の視床下部にある視交叉上核に情報が伝わります。すると、脳は「昼」と勘違いし、睡眠を促すメラトニンというホルモンが作られる松果体に伝えられ、メラトニンの分泌が抑制されるのです。結果、眠れなくなってしまう。

 最近は、子供も布団の中でスマートフォンで友達とラインのやりとりをしたり、フェイスブックやインスタグラムなどをチェックしたりして、睡眠不足に至っています。肥満の子供が増えていることがずいぶん前から指摘されていますが、本来は肥満になりづらい小学生や中学生のうちから肥満でいると、糖尿病をはじめとする生活習慣病の発症が20代、30代と早くなることも十分に考えられます。

 睡眠の質が悪ければ、睡眠時間を長めに確保しても疲労はとれません。夜は思い切ってスマートフォンの電源を切る。枕元にはスマートフォンを置かない。きょうから、家族全員で始めてください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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