骨と筋肉の疑問に答える

五十肩みたい…マッサージ店でもみほぐしてもらっていい?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

【Q】腕が上がらなくなり困っています。五十肩のようですが、マッサージ店でもみほぐしてもらうのはどうでしょうか?(愛煙家の55歳男性)

【A】おすすめしません。「五十肩」は江戸時代の国語辞典とされる書物にある言葉で、「肩関節周囲炎」が正式名称です。欧米では「フローズンショルダー(凍結肩)」とも呼ばれています。肩関節の拘縮により関節可動域が徐々に小さくなっていく病気で40~60代に多い。病院では男性より女性の患者さんが目立ちます。これは女性の方が男性に比べて病気になりやすいからではなく、洗濯物を干したり、髪を結ったり、洋服を着たりするなどで手を上げることが多い。そのため、この病気に気づきやすく、放っておくこともできないからでしょう。

 肩関節周囲炎の原因は、昔から「関節の中にあって、軟骨への酸素や栄養の供給や関節のすべりを良くするための滑液に炎症が起きているから」ともいわれてきましたが、ハッキリしません。

 最初は胸や腕、肩甲骨周辺、背中に違和感や凝りが生じてきて、徐々に痛みに進行していきます。進行すると癒着性関節包炎となり、肩関節可動域が制限されていきます。

 3つの病期があり、滑膜炎のために痛みが生じて徐々に強まり関節可動域も次第に小さくなっていく「痙縮期」、痛みは軽減していくが関節可動域の制限が続いて日常生活に支障をきたす「拘縮期」、痛み、関節可動域ともに軽快していく「回復期」です。一般的に治るまでは6カ月から2年かかるといわれています。

 私が病院に行かずにマッサージ店に行くのに反対するのは、この病気には似たような症状がありながら、別の病気が複数あるからです。例えば、「上腕二頭筋長頭腱炎」「石灰沈着性腱板炎」「肩腱板断裂」です。これらの病気と五十肩を鑑別するにはX線で骨密度と骨の変形を確認し、MRIや超音波エコーなどで腱板断裂や軟部組織損傷の診断を行わなければなりません。これらの病気ときちんと鑑別せずに治療をすると、かえって体調を壊したり、治療が長引いたりすることになりかねません。腱が断裂しているのにマッサージをすれば治るどころか逆に別の腱に損傷を与えることになりかねないのです。

 五十肩は時間が経つと自然と治っていくケースがほとんどですが、仕事や生活に支障が出る場合は治療します。それには保存療法と手術の2通りがあります。痛みが激しい間はサポーターを装着するなどして患部を固定し、非ステロイド性抗炎症薬やステロイド、ヒアルロン酸の関節内注射、温熱療法、マニプレーションと呼ばれる徒手授動術などを行います。急性期の痛みが消えたら、積極的に関節可動域を広げる訓練をすることになります。3~6カ月の保存療法で改善されない場合は関節鏡視下関節包解離術と呼ばれる手術を検討することになります。

 五十肩は安静にしておいた方がいい、と考えている人がいますが間違いです。正式に肩関節周囲炎と診断されたら、お風呂の中などで積極的に肩の関節を動かすことが大切です。痛む側の腕に重り代わりのペットボトルを持ち、それをゆっくりと大きく振るコッドマン体操などがおすすめです。

水井睦

水井睦

みずい整形外科院長。日本整形外科学会認定専門医、同会認定脊椎脊髄病医、同会認定リウマチ医、日本体育協会認定スポーツドクター。1995年北里大学医学部卒業。横浜市立大学医学部整形外科入局。大学病院、国立病院などを経て、2005年から東京・祐天寺にて開院。

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